第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「やめろ! もうすぐお館様がいらっしゃるぞ!」
怒りで後先考えずに突撃する炭治郎を、実弥は余裕綽々に嬉々とした笑みで迎える。
しかし義勇の忠告に一瞬その目が向いた。
その僅かな隙に起きた。
ガッ!
木箱から抜き払った実弥の刀を跳んで避けた炭治郎が、その顔面に頭突きを喰らわせたのは。
「ぶふッ!」
「「「……」」」
「すみません」
思わず吹き出す蜜璃に、実弥と炭治郎以外の全員の目が再び向く。
今度こそ彼女は耳まで真っ赤に染め、両手で顔を隠し俯いた。
(冨岡が横から口を挟んだとはいえ、不死川に一撃を入れた…か)
相手は柱の中でも戦闘に特化した男である。
その不死川実弥相手に一撃を突いた、名もなき新米剣士。
まじまじと木の上から見下ろす小芭内は、木箱を背に庇う炭治郎を珍しげに観察した。
「善良な鬼と悪い鬼の区別も付かないなら柱なんてやめてしまえ!!」
「っ…てめぇェ…」
つぅ、と実弥の鼻から滴る真っ赤な血。
荒く片手でそれを拭うと、額にミシリと青筋が浮く。
「ぶっ殺してやる!!」
一発触発。
その場の空気が凍り付くかと思われた、瞬間。
「お館様のお成りです!」
高い少女の声が凛と響いた。
柱達が集っている庭の屋敷内。
襖の開け放たれた広い畳の上で、いつの間にか待機していた白いおかっぱ頭の猫目の少女の口から響いた。
静々と、少女の前を通り過ぎる白い足袋。
「よく来たね」
少女の凛とした声に似ている。
しかしその声は更に穏やかに、何故か耳に透き通るように響く。
「私の可愛い剣士(こども)たち」
愛情に満ち溢れた声。
途端に、その場を凍り付かせようとしていた空気を一変させた。
「おはよう、皆。今日はとても良い天気だね。空は青いのかな?」
穏やかな笑みを称えて皆の前に姿を現した、鬼殺隊当主──産屋敷耀哉。