第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「っ妹は俺と一緒に戦えます! 鬼殺隊として人を守る為に戦えるんです! だから──」
「オイオイ。なんだか面白いことになってるなァ」
玉砂利を鳴らす足音。
笑みを称えたような低い声に、炭治郎は尚も張り上げようとしていた声を詰まらせた。
天元でさえも止められなかった炭治郎の言葉を殺したのは、声の主──不死川実弥の手にあった。
「鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかィ」
軽々と片手で持ち上げている、子供が一人入りそうな長方形の木箱。
背中で背負えるように革の紐が付いたそれは太陽光から禰豆子を守る為にと、炭治郎の育手である鱗滝左近次が作った代物だった。
「一体全体どういうつもりだァ?」
「こ…っ困ります不死川様! どうか箱を手放して下さいませ!」
「あ?」
慌てて追ってくる覆面の隠達だが、実弥に一睨みされるとそれだけで言葉を失くしてしまう。
炭治郎の命を救ったのは義勇だが、禰豆子の命を現在管理しているのは胡蝶しのぶである。
そのしのぶの命で、禰豆子の木箱は隠達が保管しているはずだった。
「不死川さん、勝手なことをしないで下さい」
「俺が話してるのはその坊主だ。鬼がなんだって?」
先程まで炭治郎に向けていた笑顔が、しのぶの顔から消える。
ぴりりと張り詰める空気の中、正反対に実弥は歪んだ笑みを浮かべ続けていた。
「鬼殺隊として人を守る為に戦えるゥ? そんなことはなァ…あり得ねェんだよ馬鹿がァ!」
徐に抜刀した刀を振るったのは、罵声を飛ばす炭治郎に向けてではなかった。
手にしていた木箱に向けて深く突き刺さる刃。
強度を上げる為にと鱗滝が塗った岩漆の効果も虚しく、長い刃は易々と木箱を貫通した。
箱の中で何が起きているのか。
木箱の隅から滴り落ちる鮮血が、全てを物語っていた。
「ッ!」
その様を見た瞬間、炭治郎の頭にカッと血が昇る。
「俺の妹を傷付ける奴は柱だろうがなんだろうが許さない!!」
「ハハハハ! そうかいよかったなァ!!」
両手首は縛られていたが足は自由なままだ。
その為怒りに染まった炭治郎は、躊躇なく実弥に突っ込むことができた。