第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「兎に角、この状況をどうにか知らせないと…ッ」
神崎アオイを追うのも大事だけど、目の前の火事も放ってはおけない。
自分で消せないなら助けを呼ぶしかない。
でも唯一の出口は神崎アオイが走っていった通路の先と、この目の前の小窓。
小窓は、幼児化しても私は通れない。
精々通れるのは──…
「政宗。ちょっと危ないけど、あの小窓から外に出て火事を知らせてくれる?」
「……」
「さっきまでの威勢はどうしたオイ」
そりゃ確かに小窓は炎で覆われてるけど。
急に大人しくなったなオイ吃驚した。
「大丈夫、ここにある水全部かけてあげるから。急いで突き抜ければ外に出られる!」
「…カァ…」
「ただの鴉の真似をするな真似を」
迷ってる暇はないの。
肩の上で尻込みしている政宗を水桶の側に下ろして、小窓に近付く。
むわりと感じる強い熱気。
息を吸うのも苦しさを感じる程、黒い煙が黙々と上がっていく。
近くで見ると威圧される。
思わず尻込みしそうになって、どうにかぐっと歯を食い縛って耐えた。
ここで退いたら駄目だ。
「通り易いように道を作ってあげるからッ」
意を決して炎の中へと腕を突っ込む。
目的は火を払う為じゃない。
小窓に取り付けてある小さな柵を壊す為だ。
「ッ…!」
熱い。
そう感じる前に痛みが走った。
でも邪魔だ、今は。
「ん、の…ッ!」
壁に足を掛けて、掴んだ柵を力任せに引き抜く。
空気の薄い山中で天元と散々訓練をしたお陰だ。
息苦しい熱気の中でも、どうにか繋げた呼吸で力を発揮できた。
ばきん、と音を立てて折れる鉄の柵。
火で熱せられていたのも幸いしたのかも。
「っ…!」
「カァ!」
「大丈、夫。これくらい」
引き抜いた手を急いで水桶に突っ込む。
羽撃き慌てる様子の政宗に、笑顔を返せるくらいの余力はあった。
うん。大丈夫だ。
「ほら。私もできたんだから。政宗もできる。大丈夫」
「……」
「そうだ…これ。持っていって。失くしたく、ないから」
髪に差し込んでいた玉簪を差し出せば、何も言わずに嘴で受け取ってくれた。
よかった、嫌がられなくて。
この簪は燃やしたくないから。