第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「な、何…地震っ?」
ふらつく神崎アオイの手が格子を掴む。
私も一瞬そうかと思った。
でも振動は一度きりで、後はうんともすんともない。
「──!」
だけど感じた微かな気配。
何か…迫ってくるような、そんな嫌な空気。
昼間でも暗い通路の奥をじっと見据えていれば、やがてそれは目の前に姿を現した。
濁った風。
ひゅおりと強い土煙が巻き上げる突風。
「きゃあっ」
「ッ」
こっちに顔を向けて土煙を避ける神崎アオイの前で、片手で顔を覆う。
巻き上げる土煙の突風は振動と同じ、一度きり。
すぐに治まるそれに、静寂が訪れる。
「なん、だったの…今の…」
力無くその場に座り込む神崎アオイの目は、私と同じ通路の奥を見ている。
強い地震のような揺れに、巻き上がった強い土煙。
此処は地下牢だ。
その自然現象が起こした出来事は、嫌な予感しか感じさせない。
もしかして…
「まさか…ッ」
私と同じ考えに至ったんだろう。さっと顔色を変えた神崎アオイが、立ち上がると暗い通路の先へと駆け出した。
「待って!」
私の予感が当たっていれば、そっちへ行くのは危険だ。
咄嗟に呼び止めるけど、向けられた背中は一度も振り返らなかった。
あっという間に通路の奥の暗闇へと消えて見えなくなってしまう。
まずい。
もしかしたらあれは、地下通路が崩壊した衝撃かもしれないのに。
此処は剥き出しで掘られた土穴に、周りを板で固めて道を固定しただけの炭鉱のような場所だ。
罪人を閉じ込めておくには、それくらいで十分なのかもしれないけれど…兎に角造りは雑な道。
板の木が腐っていたのか、それとも本当に地震が起きたのか。
なんにせよ神崎アオイが向かった先で恐らく地盤沈下の崩壊があったはず。
第二の崩壊の危険性もある。
もしこの先で彼女が生き埋めになってしまったら、助けられない。
「政宗! 彼女を呼び戻して! あっちへ行くのは危険だからッ」
いつもは呼んでも返事一つまともにしない政宗だけど、状況が状況だとわかっているんだろう。
切羽詰まった声で呼べば、すぐさま巣箱から姿を現した。