第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「しかしどんな訓練を行う為であれ、その恰好はあまり良いとは言えないな」
言われて改めて、露出の恥ずかしさを思い出す。
慌てて掛襟を託し合わせて背中と肩を隠した。
「鬼喰いの訓練も、柱の監視無しで行うのは些か納得し兼ねる。俺か、悲鳴嶼殿の前以外では軽率に行うな。それにこんな野外では、誰に見られているともわからない」
「う、うん…気を付けます」
玄弥くんしかいないと思ってたけど、こうして杏寿郎にも見られてしまったし気を付けないと……ん?
「あれ? そういえば、どうして杏寿郎が此処に?」
柱の仕事に戻っているんじゃなかったっけ。
「約束しただろう。週末を過ぎれば迎えに行くと」
あ。
もうそんなに経ってたの…あっという間だったな…。
あんまり成長できてる気がしない。
「それに好機と言うべきか、冨岡達から連絡も届いた。明日には本部に帰還するそうだ」
「! 皆、無事だったの?」
「冨岡達、増援組は無事だ。しかし既に指令を受け那田蜘蛛山に踏み込んでいた先の隊士達は、幾人も命を落としていたそうだ」
「…そう、なんだ…」
命を落としたって…鬼に、喰われたってことなのか…そうなんだろうな。やっぱり。
「悪い話ばかりではない。体を異型にされてしまった隊士達もいたが、命さえ無事なら胡蝶の治療を経てお館様が今後の道を敷いてくれる。そう暗い顔をしなくても大丈夫だ」
意図は違うけれど、暗い思いは杏寿郎に伝わったみたいだ。
やんわりと向けてくれるその気遣いと優しい言葉に、悪い気がしてしまう。
私のちっぽけな鬼の心配事より、その隊士達の方が大変なはずなのに。
駄目だな…こんなことで凹んでたら。
「俺も不死川少年の鬼喰い訓練を見学して行きたいところだが、明日にも柱合会議は行われる。その前に、蛍少女を然るべき所へと帰しておかなければならない」
「然るべきって…」
「言ってなかったっけ。提供して貰ってる部屋があって、其処はこの山から少し距離があるんだよね」
"檻"とはっきりと口にするのは、なんとなく止めた。
悲鳴嶼さんから聞いていれば、説明せずとも玄弥くんも知っているだろうけど。