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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第4章 柱《壱》



「テメェら揃いも揃って柱の恥だなァ」

「それはこの鬼を生かしたお館様も蔑むことになるぞ」

「っ」

「無論、不死川の意見も理解はでき」

「はッ理解だァ? お前こそそもそもの俺達の存在意義を忘れてんじゃねぇだろうなァ! 鬼は悪だ、悪は皆殺しだ! 大事なもんを喰われた時、まだ同じことが言えるのかよォ!」

「……」


 張り詰める空気は消えたけど、ぴりぴりとまだ漂う威圧が肌を刺激する。


「次の柱合会議が近い。俺はそこでその鬼の死刑をお館様に求める。精々それまでその短い命、自分の肉でも喰らって繋いでろォ」


 ざ、と草を踏む音が鳴ったかと思えば、男の気配が突如として消えた。
 それでも顔は上げられなかった。


「ふ…っ」


 自分の血肉を喰むことで、意識をそこに留めることで、精一杯だったから。


「鬼をどうこう言う前に、人間相手にどうこうしろって話だな…」

「う、宇髄さん、その子供の腕…どうするの?」

「これは俺が対処しておく。此処に放っておいたら、いつまで経ってもそいつが"そんな状態"のままだろ」


 未だ微かに鼻孔を突いていた、稀血の匂いが遠のく。
 それでも蹲ったまま、自分の血肉を咀嚼し続けた。


「代わりにそいつは任せたぜ、煉獄」

「うむ。…彩千代少女」

「…ふ…ぅ…」

「彩千代少女。聞こえているか?」

「っ…ぅ、く…」

「──彩千代蛍」


 そっと、頭に誰かの手が触れた。


「もういい」


 押し付けるような動作じゃない。
 姉さんのように、優しく頭を撫でてくれるような、そんな掌。


「君の覚悟は伝わった。だから己を喰らうのは、もう止めなさい」


 だけど姉さんとは違う。
 もっと大きな、掌だ。


「…っふ…?」


 涙でぼやけた視界に映り込む、炎の羽織。
 腕の肉に喰い込んでいた牙をゆっくりと離して、恐る恐る顔を上げた。

 そこには赤より赤い、猩々緋色が在った。
 なのに血のように、私の五感を惑わしてくる赤じゃない。
 太陽のような、温かい"赤"だ。

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