第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
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玄弥くんと協定を組んだ日から、共に戦力向上貢献の訓練が始まった。
玄弥くんの言う通り稽古事には干渉してこない悲鳴嶼さんだから、余計なことを考えず訓練に集中できる。
尚且つ岩柱の訓練生として先輩な玄弥くんだから、一人で進めるよりずっと滝行も丸太上げも岩押しも的確に進められるようになった。
協定は思いの外、私に利益があったみたいだ。
そして。
「く…っ」
「甘い! 下ッ!」
「ぉわッ!?」
鉄砲を武器に対峙する玄弥くん相手に実践稽古を行う。
相手は飛び道具を持っているけど、そこに若干頼り過ぎてる。
接近戦にさえ持ち込められれば勝てる。
今回も、掬った足払いに足腰を崩した玄弥くんの首筋に爪先を当てるのは容易かった。
「一本。私の勝ち」
「…ッ」
爪先を退けば、苦々しい表情を浮かべている三白眼と目が合う。
「くそ…ッまた!」
「…玄弥くんは優しいよね」
「は?」
「私は弾丸を受けても死なないんだから、実弾を使っていいって言ってるのに」
空弾じゃ足止めにもならない。
いくら弾の気道を読んで避けてるにしても、実際に攻撃を受けるのとそうでないのとは天地の差がある。
それは、天元との実践稽古で身を持って実感したことだ。
十の談義戦より、一の実践稽古。
それに尽きる。
「って言ったって…蛍の動きが尋常じゃないんだよ」
「私のは普通だよ」
「普通じゃねぇだろ。なんださっきの動き。どうやったら背を向けた体勢で回転蹴り入れられるんだよ」
「私は柱との実践稽古でさっきの技を活かし切れないまま百回は殺されてるから。だから普通なの」
さっきの技だって、天元には全て見切られて一本を取られた。
だからどこに注意を払って出せばいい技なのかは、自然と体が覚えたみたいだ。
結局、経験値に勝るものはない。
「風柱に追い付くんでしょ。私に負けてたら背中にも触れられないよ。次、」
玄弥くんにはこれくらいの発破をかけた方が、やる気を出してくれる。
休む暇を与えず目の前で手を叩けば、キッと強い視線が向いた。
うん、いいねその目。
「なら、オレにも実技を使わせろ」
実技?
「何? 実技って」
「オレの本領は鬼を喰ってからだ」
鬼を喰うって……それ、私を喰らうってこと?