第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「確かにオレがこんなこと話せたのも、あんたが鬼だったからだ」
相手が鬼殺隊であれば、馴れ合う気など更々ない玄弥は目もくれなかっただろう。
蛍が鬼であったからこそ、初めて柱以外の者に目を向け足を止めることができた。
「オレはこの鬼殺隊で一刻も早く柱にならなきゃならない。手を引くってんなら協力しろ」
「私が?」
「あんたも煉獄さんの下で腕を磨いてんだろ。あの人が継子として認めてるなら、それ以上の資格はない。悲鳴嶼さんの修行は力を付ける為に必要不可欠だけど、悲鳴嶼さん自身は率先して稽古を付けてくれる性格じゃないからな。実践稽古がしたいんだ。鬼のあんた程、"実践"の適任はいないだろ」
つまりは、蛍相手に力を磨き上げたいということ。
叩かれた掌で拳を握ると、蛍はすぐに笑みを返した。
「わかった。私ももっと自分を磨きたいし。その話、乗った」
「よし」
傷だらけの大きな拳が、こつりとその拳に触れる。
「じゃあ当面はお互いの戦力向上貢献と、風柱の情報交換ってことで。協定組ね」
「いいけど…それ、兄貴には言うなよ?」
「勿論。弟くんと"不死川実弥を一泡吹かせ隊"結成したなんて言わないよ」
「おい待てコラなんで一泡なんだよ」
「え? じゃあ"不死川実弥を一矢報いり隊"」
「待てコラ! オレは兄貴に近付きたいだけだ!」
「えぇー…"さねみんな大好きになり隊"?」
「…一番殺されるやつなそれ」
人間を喰らう鬼と、鬼を喰らう人間。
なんとも奇妙な二人の間で、その協定は結ばれた。
微かな灯りだけ灯された部屋には蛍と玄弥の二人だけ。
他にそれを耳にしていたのは──
「……」
肩に鴉を乗せ、廊下の突き当たりで静かに佇む屋敷当主のみ。