第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「なら、私なりにあのおっかな柱に近付けるようにしてみるから。だから、玄弥くんも」
「…だから?」
「私と一緒に、近付けるだけ近付いてみよう。手を引くことなら、できるから」
今一度、その手と顔を交互に見る。
三白眼を丸くして、玄弥は不思議そうに蛍を見た。
「なんで、あんた…ほとんど初対面のオレに、そんなこと言えるんだ」
「私は私の為に言ってるだけ。私がこの鬼殺隊で生きていられるように。その延長線上に玄弥くんがいただけだよ」
「でもオレは…鬼を喰う、人間だぞ?」
「奇遇だね。私も人間を喰う鬼なんだ」
「それとこれとは一緒じゃ…っ」
「うん、一緒じゃない。でもきっと玄弥くんが周りに向けられた目を、私は知っていると思う」
鬼を喰う。
それは鬼が人を喰らうことと等しく、禁忌な行いだろう。
いくら鬼を倒す為とて、そこに異議を唱える者はきっと少なくない。
そんな目を、声を、玄弥は受けてきたはずだ。
「"だから気持ちがわかる"なんて言わないよ。玄弥くんの人生は玄弥くんの人生。君しか知らないことだから。だから…その生き方が、間違ってるとも言わない」
「……」
「だから、さ。遠い所にいるなら、追いつけばいい。届かないなら、呼び続ければいいい。方法はきっと幾らでもある。あのおっかな柱のことだから、石の一つでもぶつければ逆に追い掛けてくると思うよ。鬼より鬼の形相で」
「…は、」
気の抜けたような声が玄弥から漏れる。
蛍の目に映ったのは、目尻に微かに皺を寄せる柔い表情。
初めて見た、一瞬の笑顔だった。
「ンだよ、鬼より鬼の形相って…兄貴を悪く言うなっての」
「事実を言ったまでだよ、事実を。追い掛けられたことあるからね。すんごく怖かった」
「そりゃあんたが鬼だからだろ」
「それ。その鬼って呼び方、おっかな柱を思い出すから。蛍でいいよ」
「じゃああんたも兄貴をおっかな柱なんて呼ぶのやめろよな」
「えええ…」
「そんなに難関かよなんだその絶望的な顔」
依然、差し出されたままの色白の鬼の手。
そこにちらりと視線を向けると、溜息混じりにぺちりとその手を傷だらけの手が叩いた。