• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔



「けどオレと仲良くしたって、兄貴と親しくはなれねぇよ。残念だけど」

「いや親しくなる気は……なんで? 兄弟でしょ?」

「兄弟だから…言っちゃいけねぇことを、オレは言っちまった」

「…それ外で玄弥くんが言ってたこと? オレがどうこう言っていい訳ないのにって」

「よく憶えてんな…」

「鬼は耳がいいから」


 単なる建前だ。
 鬼殺隊へ来てから、当主である産屋敷耀哉と約束事を交わしてから、常に誰かの言動には逐一気を向けるようになった。

 誰にどう見られているのか。
 過ちは犯してしまっていないか。

 まるで見えない目に常に監視されているような感覚。
 だから自然と色んな言葉を拾うように、身に付いた蛍の癖。
 それは偶にしんどい時もある。


「触れて欲しくないなら、これ以上は訊かないようにするよ」


 力無く笑う蛍の表情に、玄弥の目が止まる。
 暫く口を噤んだ後、意を決したように再度その口を開いた。


「オレが初めて鬼を見たのは、母親の体を通じてだったんだ」


 ぽつりと漏らしたのは過去の話。
 蛍の言った簡単には触れてほしくないであろうことを、自ら玄弥は口にした。


「母親は、オレの弟妹達を呆気なく殺した。あんなに自分より大切にしていた息子達を…だから、あんたに訊きたかった。あの時、母親はどんな思いで手をかけたのかって。そこに少しでも後悔があるなら…救われるかも、しれない……いや、」

「?」

「何も感じていなければいいと思った。何もわからないままでいられたら…母ちゃんも…」


 そっと玄弥の手が顔を大きく横切る傷痕に触れる。
 もう何年も前の傷跡なのに、こんな激しい雨の日には微かに痛みが沁みるように感じる。

 その傷痕は、玄弥がまだ十にも満たない幼い頃に傷付けられた。
 付けたのは、鬼と化した実の母親だった。

/ 3467ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp