第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「けどオレと仲良くしたって、兄貴と親しくはなれねぇよ。残念だけど」
「いや親しくなる気は……なんで? 兄弟でしょ?」
「兄弟だから…言っちゃいけねぇことを、オレは言っちまった」
「…それ外で玄弥くんが言ってたこと? オレがどうこう言っていい訳ないのにって」
「よく憶えてんな…」
「鬼は耳がいいから」
単なる建前だ。
鬼殺隊へ来てから、当主である産屋敷耀哉と約束事を交わしてから、常に誰かの言動には逐一気を向けるようになった。
誰にどう見られているのか。
過ちは犯してしまっていないか。
まるで見えない目に常に監視されているような感覚。
だから自然と色んな言葉を拾うように、身に付いた蛍の癖。
それは偶にしんどい時もある。
「触れて欲しくないなら、これ以上は訊かないようにするよ」
力無く笑う蛍の表情に、玄弥の目が止まる。
暫く口を噤んだ後、意を決したように再度その口を開いた。
「オレが初めて鬼を見たのは、母親の体を通じてだったんだ」
ぽつりと漏らしたのは過去の話。
蛍の言った簡単には触れてほしくないであろうことを、自ら玄弥は口にした。
「母親は、オレの弟妹達を呆気なく殺した。あんなに自分より大切にしていた息子達を…だから、あんたに訊きたかった。あの時、母親はどんな思いで手をかけたのかって。そこに少しでも後悔があるなら…救われるかも、しれない……いや、」
「?」
「何も感じていなければいいと思った。何もわからないままでいられたら…母ちゃんも…」
そっと玄弥の手が顔を大きく横切る傷痕に触れる。
もう何年も前の傷跡なのに、こんな激しい雨の日には微かに痛みが沁みるように感じる。
その傷痕は、玄弥がまだ十にも満たない幼い頃に傷付けられた。
付けたのは、鬼と化した実の母親だった。