第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「なんで、そこまでして…」
それは自然と零れた問いだった。
何故鬼を喰ってまで、鬼殺隊になろうと思ったのか。
「そこまで…鬼が、憎い、から?」
予想できる理由といえば、それしかない。
鬼殺隊で命を賭けている者の大半が、そこに尽きる。
柱である胡蝶しのぶもそうだ。
「鬼が憎いって言うより…オレが、オレ自身を許せねぇから」
しかし玄弥の答えは違っていた。
「鬼を喰うことくらい、どうってことない。それ以上に辛くて、苦しい思いを…兄貴は、してるから」
「(お兄さん?…それって…)…不死川実弥?」
天井ばかり向いていた三白眼が、驚きの目で蛍を映す。
それが答えだった。
「やっぱり。玄弥くんは、あの風柱の弟なんだ」
「兄貴を知ってんのか?」
「うん。柱には全員会ってるから」
「ほ、本当かっ?」
「嘘なんて言わないよ」
途端に食らい付くように身を乗り出す。
その反応からして疑う余地などない。
不死川という苗字は単なる空似ではなかった。
「兄貴はどんな感じだった? その…元気、だったか?」
「それは私より玄弥くんの方が知ってるでしょ」
「っ…ぃゃ…オレは…」
歯切りの悪い方に玄弥に、蛍の頭が傾げる。
「(…そういえば…)玄弥くんはなんで悲鳴嶼さんの継子をしているの? 風柱の継子にはならなかったの?」
「……」
純粋な疑問を蛍が問い掛ければ、玄弥の表情が暗く陰った。
噤んだ口は開かない。
そこに言葉はなくとも、ありありと兄弟の間に何かあったことを示していた。