第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
どくりと、心臓が嫌な音を立てる。
「…どういう意味?」
「言葉の通りだ」
しかし蛍の嫌な予感と、玄弥の言うそれは違っていた。
「オレは鬼を喰うんだよ」
言葉の通り。
物理的に、玄弥は鬼を喰うのだと言う。
それには蛍も目を見開いた。
「玄弥くんも鬼、なの?」
「違う。オレは人間だ」
「人間なのに鬼を、喰べる、の?」
「…やっぱ鬼からしても変な話か。だよな…異常だよな」
声を荒立てず、静かに視線を落として受け止める。
そんな玄弥の姿に、きゅっと膝の上で拳を握る。
見覚えがあった。
見覚えがあって当然だ。
その姿は、人間を喰う己の姿を垣間見ているようだったから。
「変じゃないよっ」
「…は?」
「や、変…じゃない訳じゃ、ない、けど…でも…その、理由があるんでしょ。そうなった、理由。何も聞いていないのに、異常なんて言えないよ」
咄嗟に出た言葉に、慌ててもごもごと付け足していく。
辿々しく伝えてくる蛍に、脱力気味に玄弥の肩が下がる。
「あんた…可笑しいんじゃねぇのか」
「それさっき言われた」
「…少しわかった気がする。あんたが鬼殺隊にいる理由」
「そう?」
「…オレが鬼殺隊にいられる理由は、それなんだよ。オレが鬼を喰うからだ」
言い切ってから「いや、」と言い直す。
玄弥の目は何かを思い出すように天井板を見上げた。
「いられるというより、居場所を作って貰ってる感じか。オレを見捨てずにいてくれたのは悲鳴嶼さんなんだ」
「…なんで、鬼を喰べるようになったの…?」
「オレは呼吸を使えない。日輪刀で鬼を倒せない。それでもどうしても鬼殺隊に入りたかった。剣士になりたかった。道を絶たれて足掻いた結果がこれだ」
窮鼠猫を噛む。
追い詰められた弱者は、時に強者を喰らうこともある。
玄弥の鬼喰いは正にそれだった。
「鬼を喰べても体に異常はないの?」
「鬼を喰えば、一時的に身体能力も回復能力も上がる。それがオレが鬼と対等に戦(や)り合える方法だ」
つまるところ玄弥の言う通りであれば、その体は鬼の利点のみを吸収していることとなる。
そんな人間もこの世にはいたのかと、蛍は改めて玄弥の姿をまじまじと見返した。