第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「ああ、あれ…ごめんね、玄弥くんを泣かせてしまって」
「泣いてねーし」
「え? じゃあ感動させた?」
「感動してねーし!」
「ん? あ、驚かせたか」
「驚い…たかもしんねーけど!」
「素直でよろしい」
「というか! あんたはなんで"そう"なんだよ!」
「そう。とは」
「それだよ! なんで普通に戯けていられんだってことだ!」
「ええ…だってそうでもしないと絶対今重い空気になるでしょ」
「っぐ」
「嫌だよ、またどんよりして玄弥くんに頸締められるの」
「っ…それは」
「死なないけど」
「っせーな!」
「というか玄弥くんもだけどね」
「はっ?」
「私が普通にしてるって言うけど。玄弥くんも、私からすれば十分普通だよ。吃驚してる」
「どこが…っ」
「私が鬼だって知っても、話しかけに来てくれたところ」
「……それくらい悲鳴嶼さんだってするだろ」
「悲鳴嶼さんは柱だから。お館様から事前に私のことを聞いてる」
実力差のある柱や、仲間思いの後藤とは違い、玄弥はまだまだ駆け出しの鬼殺隊の隊士。
鬼の恐ろしさは知っていても、柱のように鬼に慣れた余裕も、後藤のように歩み寄る勇気も、まだ持ち得ていないはずだ。
そんな玄弥は、蛍にとって十分目を見張る存在だった。
「玄弥くんは私の言葉を聞こうとしてくれたでしょ。私が鬼だと知ったら、そもそもまともに会話なんてしてくれない人間が多い。柱の人達だって最初はほとんどがそうだったよ。でも玄弥くんは違った。そこに、何か答えを探していたみたいだけど…」
「……」
「だから玄弥くんと話しに来たの。話したいと、思った」
最初に歩み寄ったのは蛍ではない。
玄弥の方から足を進めてきたのだ。
だからこそそこに応えたいと思った。
「オレだって…あんたみたいに声を掛けてくる鬼は初めてだ。可笑しいんじゃねぇのか」
責めるような声ではない。
それに肩を竦めながら、蛍は僅かに苦笑した。
自分が可笑しな鬼だという自覚はそれなりにある。
「けど、それなら余計にオレには近付かない方がいい」
「…それ、悲鳴嶼さんにも言われた」
「だろうな」
「なんで?」
「…言っただろ。オレは、あんたを喰えるって」