第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「最初から説き伏せられるような立派な理由がないと、知ることも許されないんですか?」
「お前は鬼子だ」
「(…そんなこと知ってる)…だったら私には何もない。鬼という時点で私は人間とは違う」
その決定的なものを玄弥を通じ感じてしまった。
鬼になってもまだ人の心を持っていると言われた。
他の鬼とは違うと、微かな希望を向けられた。
しかし玄弥の刃のような鋭い問い掛けには何も答えられなかった。
人間を喰うことは、この世界では不道徳なことなのに。
たった一つの理性も保てず、牙を向けてしまう自分は最早人とは異なる生き物なのだと悟ってしまった。
「鬼という理由で道を絶たれるなら。私が此処にいる意味は何もない」
視線が下がる。
俯く顔に、不意に蛍の脳裏に掠めたのは義勇の言葉。
『お前は俯いてばかりだな』
ぐ、と更に強く拳を握る。
ゆっくりと顔を上げると、この鬼殺隊で誰よりも高い背丈を見上げた。
「…初詣」
「?」
「天元に初詣に誘われて行こうと思ったのは、然るべき理由があったからじゃない。ただ行ってみたかった」
それは小さな小さな好奇心から。
「ただ感じてみたかった。蜜璃ちゃん達と過ごす年明けを」
「……」
「でもそこで私が知ったのは…貴方のこと」
予想なんてしていなかった。
歩み寄る気もなかった。
ほんの些細な偶然が織り成した出来事だ。
「私…同情は嫌い、です。可哀想って言葉も、優しく包んだ刃物に感じる」
それは柔らかくも確かに皮膚を刺す。
ゆっくりとだが確かに傷を付けては広げるのだ。
「でもそれは、そういう人ばかりだったから。私の周りには建前でしか歩み寄ってくれない人が多かった」
作られた傷口に丹念に塩を塗り込んで、自分は優位な立場にいるのだと安心する。
この浮世の世界では、強い者程裕福になれる。
だから相手を貶めるのだ。
「でも…貴方は違いました。その言葉は、自分の為に言っているんじゃない。他の誰かの為に言っているんだって知ったから」
慈悲を失くせば怒りしか残らない。
そこで生まれる恐怖を誰かに向けない為にと、行冥は自ら足を止めていた。
それが彼の常に抱えている慈愛の意志だ。