第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
頸を締められていないのに息が詰まる。
体が強張る。身が竦む。
違う。
目の前にいるのは玄弥くんだ。
あの男じゃない。
わかっているのに声一つ上げられなかった。
「…あんた…」
激しい雨音の間に、微かな玄弥くんの声を拾った。
その雨音が僅かに遠ざかる。
ばたばたと雫が何かに当たり、跳ね返る。
それは私と玄弥くんに降り注ぐ雨粒を遮ったもの。
ジャリ
聞き覚えのある音。
これは…数珠の、音だ。
「玄弥」
「…悲鳴嶼、さん」
其処に、悲鳴嶼行冥は静かに佇んでいた。
いつ傍に現れたのか。
足音一つ、気配一つ悟らせず、傍に佇む巨体は大きな番傘を広げて、私と玄弥くんの上にかざしている。
「鬼子よ」
光のない目が、玄弥くんから私に向く。
上手く応えられずに、どうにか視線だけ向ける。
そこにはよく見る哀しげな表情は見えなかった。
「二人共、屋敷に入りなさい」