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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔



 ザアアアアア


 雨が顔を打つ。
 視界を遮る程の大粒の雨水は煩わしいものでしかないのに然程気にならない。
 それよりも目の前で泣く玄弥くんしか見えなくて。

 泣いては、いない。
 でも、泣いている。

 支離滅裂だけど、今の玄弥くんは正にそんな姿だった。


「ッ…なんで、抵抗しねぇんだよ…鬼ならできるだろ」


 一切抗おうとしない私に、ようやく玄弥くんの目が向いた。
 緩む気道に、空気が入り込む。


「っげほ…ッ」


 思わず咽れば、更に強い視線を感じる。

 なんで。どうして。
 そんな問い。

 玄弥くんは、不死川実弥とは別の意味で根が素直な男の子だと思う。
 それが心根を真っ直ぐに感情として表れるから、伝わり易い。
 その優しい絹鼠色を通じて。
 …色って、感情も伝えられるんだな…。


「抗う必要もないってことかよ…どうせオレは呼吸を使えないから」


 呼吸を、使えない?


「あんたは、鬼だ。オレ達人間を、喰う側だ。けど忘れんな」

「っ?」


 襟を掴まれ、強い力で持ち上げられる。
 ぐっと近付く玄弥くんの顔に、剥き出した歯が間近に迫る。


「オレだって、あんたを喰うことができる」


 私を、喰う?


「自分が捕食側だなんて思わないことだ」


 何を、言って、いるのか。
 よくわからなかった。


「…っ」


 違う。
 わからないフリをしようとした。
 でもできなかった。

 自分が捕食者側だなんて思ったことは一度もない。
 だって私も姉さんも、ずっと喰われる側だった。
 男という生き物に、人生を咀嚼される側だった。

 喰われる痛みは、知っている。


「……」


 喰われる恐怖は、知っている。


「…ッ…」


 鬼と人間じゃ意味が違うなんて、野暮を言うような輩がいればそれこそ喰ってやりたい。
 どんな形であれ、あれは非道徳的な行いだ。

 仰向けに倒れ込んだ私に、跨って被さる玄弥くんの影。
 それがあの時の光景と重なった。

 どんなに体が強くなったって、どんなに時が経ったって、忘れない。
 忘れられるはずがない。

 だって、それは、










『化けて出るなよ、柚霧』










 私が死を悟った、光景だから。

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