第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
話しかけたら逃げられそうだから敢えて知らないフリをしておこう。
…と思っていたのは最初だけで。
ザアザアと止まない雨音に、冷える体。
目の前で焼き魚をパクつく政宗の食べっぷりが余りに美味しそうで、じっと見てしまう。
人のご飯は食べられなくなった癖に、こういうのは美味しそうに見えるんだよね…なんでだろ。
魚に夢中な政宗は気付く素振りがない。
それを良いことに、まじまじと漆黒の姿を観察した。
きちんと手入れしているんだろう、雨水も弾く艷やかな黒い羽根。
ふわふわとした羽毛は、滑らかで綺麗で……暖かそう。
というか暖かいはずだきっと。
じゃなきゃ一年中その姿で季節を過ごせる訳がない。
…す、少しくらいなら…いいかな。
不可抗力ってことで。
「えい」
「ッ!?」
そろっと後ろから伸ばした両手で、わしっと黒い体を両側から掴む。
抵抗する前にと急いで引き寄せると、そのまましっかり抱き込んだ。
やっぱり結構大きいな、鴉って。
「ガァ!」
「まーまー落ち着いて。今度は喰べようなんてしないから」
や、一度喰べようとしかけたことは問題だけど。
今回はそんな気ないから。
「寒いからちょっとだけ暖を取らせて」
「ギャア! ガー!」
「落ち着けー何もしないぞー」
凄い声。
それでも放す気はないから抱き込んだまま──痛っ!
「いたっちょっそれやめっ」
ガツガツと大きな嘴で手や腕を突っ付いてくる。
突っ付くなんて表現甘い程、突き刺してくる嘴が痛い。
「血が出るから!」
「ガァ!」
「なんでそんなに嫌がるわけ!? 取って喰べる気なんてないからね!?」
「ガー!」
「お互いに暖取りできて一石二鳥で…ッ」
「ガァアア!!」
「人語を話さないとわかりません!!」
「おい」
「「!?」」
驚いた。
二人、じゃないや鬼一体と鴉一羽しかいないと思ってたから。
騒いでいた合間に届いた声に、吃驚して振り返る。
「…ぁ」
其処にいたのは予想もしていなかった人物だった。
番傘を差して立っていたのは、もう会ってくれないと思っていた彼。
「玄弥、くん」
不死川、玄弥くん。