第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「はぁ…生き返る…」
ぱちぱちと小さくとも炎を上げる焚き火を前に、両手をかざす。
杏寿郎が火打ち石を置いていってくれたお陰だなぁ…じゃなきゃ死んでた。色々。
屋根代わりに岩場の間に挟み立てた番傘の下で、焚き火にかざしていた魚の具合を見る。
うん、良い具合に焼けたかな。
「政宗、ご飯できたよ」
「……」
「食べないの? 折角獲った魚なのに」
「……」
「私食べられないから、それなら捨てるしかないんだけど」
手頃な小枝に刺した焼き魚を、これでもかと高い木の上に停まっている政宗に向かって振る。
じとっとした目で睨んできていたけど、仕方ないと魚を土に埋めようとすればようやくその翼を広げた。
ばさりと私の幾分離れた所で地面に下り立って、飛び跳ねるようにして少しだけ歩み寄ってくる。
でも一定の距離以上は近付かないから、私も自分から少し離れた所に焼き魚を地面に突き刺してあげた。
一日中監視でもお腹空くだろうしね。
私が焼いたものに手を付けてくれるようになっただけ、一歩前進かな。
「それにしても春先なのに寒い…ここ最近太陽が出てないからかな…」
もう少し火を大きくしようかなぁなんて考えながら焚き火を見ていたら、ぽつりと冷たい雫が手に落ちた。
…うわ。
「ええー…」
すぐにその雫は、ぱたぱたと音を上げて向かってくる。
ずっと曇り空だったけど、雨は降らなかったのに。
どんどん雨によって火を小さくしていく焚き火を目の前にして、思わず肩が下がった。
…今日は一段と冷えそうだな。
ザアアアアア
「まさかこんな大雨になるなんて…っきし!」
小さな雨音はすぐに大きな音に変わり、焚き火が完全に消えるのに時間は掛からなかった。
暖取りできるものがなくなってしまって、番傘の下で身を縮ませる。寒い。
この山、洞窟とか大木の穴とかないもんな…潜って体を休められる場所がない。
野晒し状態にどうしようかと考えていると、ふと足元で動く影が一つ。
見れば雨宿りするように、焼き魚を咥えた政宗が番傘の下に入ってきていた。
わあ近い。
政宗からここまで近付いてきてくれたのは初めてじゃないかな。
というか鴉も雨宿りするんだ。