第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
それに最近は突破口も見つけたし。
「そうだ。一つだけ新しい発見があったんだ。見てて、政宗」
呼べば、そっぽを向いていた黒い頭が即座に向く。
びしびしと感じる強い視線。
片目だけなのに、ギロリと睨んでくる様はあのおっかな柱と同じ目だ。
無視し続ける性格も、この一声で止まる。
いつまでも君、とか鴉、とか呼べないから、勝手ながら名前を付けた。
由来は簡単、その隻眼から。
右目の失明があの独眼竜と呼ばれた伊達家の戦国大名と同じだから、その名を付けた。
政宗。
堂々たる立派な名前だと思う。
なのにこの鴉は、それで呼ぶと物凄い顔をしてくる。
だからって止めないからね。
睨んでくる政宗を無視したまま、濡れた体で川岸に再度立つ。
だけど水の中には入らない。
そこで合掌をしたまま一呼吸。足元に集中。
強い滝の打撃がない分、滝行時より操りやすい。
黒い影が、ゆっくりとだけど水辺へと滑り落ちていく。
長く長く尾を引いて、川底に手足を張り巡らせる。
額に汗が浮かぶ。ぴきぴきと血管がしなる。
だけどもう少し…あと、ちょっと。
想像するのは、もう一人の自分がいる感覚。
肌に伝わるように、水の冷たさがわかる。
海底の薄暗い様子も。
そこでじっと息を潜める。
どうにか動かせる影の行動は、まだ拙く遅い。
だけどほんの一瞬だけ、鬼である自分の姿を伝えれば──
──バシャッ
目の前で水飛沫が舞う。
川底から飛び出してきた魚が、大きく宙を舞って目の前に転がり落ちた。
「っシ…!」
短く息を吐き出して呼吸を止める。
魚を跳ね上げたのは、水底に沈ませていた影。
まだこの一瞬だけだけど、それだけなら魚より速い動きができる。
「どう?」
びちびちと跳ねる魚の尾を捕まえて、政宗に見せる。
隻眼の左目は鋭い眼孔を、私と川の交互に向けていた。
政宗に影の動きが見えたのかわからないけど、どうやら驚いているみたいだ。
やった。
「っくし!」
ひゅるりと其処へ風が舞って、くしゃみを一つ。
うう、寒い!
早く火を起こして暖を取ろう。