第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
少年の言葉は累に向けられていた。
しかしこの世の全ての鬼にも向けられている。
その言葉が、あの小さな血溜りに蹲っていた鬼の彼女にも向けられているのだと思うと。
何故だか胸の奥がざわついた。
「だから…足を、退けて下さい…っ」
再度願う少年の強い言葉に、義勇の意識が向く。
ようやく初めて目の当たりにした顔だった。
逆立った黒い前髪に、左の額には痣のような痕。
緑と黒の市松模様の羽織。
どこか見覚えがある。
眠っているのか、気絶しているのか。
少年が覆い被さっている目を瞑ったままの少女には、普段ならば見慣れないものが付いていた。
竹筒に紐を通したもの。それが少女の口を塞いでいる。
義勇には、余りにも見慣れた物だった。
それを前にして目が僅かに見開く。
見覚えがあったはずだ。
この少年と少女は、義勇が鱗滝左近次と共に命を賭した存在。
鬼殺隊の兄と鬼の妹である、唯一無二の絆を持った存在。
「…お前は──…」
竈門炭治郎と、竈門禰豆子だ。