第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
はらりと、最後の塵が消えゆく。
燃やし灰となり自然に帰すように。
累の体は着物だけを残し完全に消滅した。
それでもそのまま残った着物は、まるで倒れた幼い子供の姿を表しているようで。
背中に添えていた少年の手が、ぎゅっと着物を握る。
真っ白な累と同じに真っ白な着物。
まるで死装束にも見えた着物の上に、乗る一つの足。
義勇だった。
亡骸にも見える累の着物を踏み付け、目の前の少年を見下ろしている。
「人を喰った鬼に情けをかけるな。子供の姿をしていても関係ない」
淡々と告げる義勇の言葉に、同情の色など一切ない。
「何十年何百年生きている、醜い化け物だ」
ここで同情してしまえば、今までこの鬼に殺された隊士達はどうなる。
繭玉に閉じ込められ、骨の髄まで溶かされた彼らは。
だからこそ鬼に同情の一欠片など与えはしない。
「…殺された人達の無念を晴らす為、これ以上被害者を出さない為…勿論俺は、容赦なく鬼の頸に刃を振るいます」
満身創痍であるはずの少年は、意外にもはっきりと思いを口にした。
「だけど鬼であることに苦しみ、自らの行いを悔いている者を踏み付けにはしない」
見上げてくる目は一時足りとも義勇から逸らされない。
強い意志を秘めた、燃えるような眼。
「鬼は人間だったんだから。俺と同じ人間だったんだから」
「……」
「…足を、退けて下さい」
退こうとしない義勇に、少年もまた退きはしなかった。
握りしめた着物を離すまいと、力を込める。
「醜い化け物なんかじゃない。鬼は虚しい生き物だ。悲しい生き物だ」
本心なのだろう。
少年のその言葉に、義勇の眉間に皺が寄る。
何を甘いことを、と呆れたからではない。
『…わたし、は……かわいそう、なの…?』
弱りきった小さな体で、細々と問い掛けてきた。
己の体を喰らうことでしか欲求に耐えきれない。
鬼にも成りきれず、人にも戻れず。
それでも幼子と化した姿で尚、彼女は告げたのだ。
可哀想なんて言わないでと。
同情なんてしないで。
足場を優しく救わないでと。
哀れみよりも、今の自分を見てもらうことを求めたのだ。
そんな一体の鬼を思い出したから。