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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔


──────────

 剥き出しの土の上を、剥き出しの足が進む。
 一歩、二歩と、覚束無い足取りで。

 頸を失くした鬼の体は、手探りに進むように両手を伸ばした。
 ぼろりと、そこから欠けていく体。
 指が、腕が、空気中へと塵となって消えていく。

 それでも尚進む。
 視界を失くしたはずの体は、何かを求めるように。
 伸ばした崩れゆく腕の先には、妹を守り被さっている兄の姿。


(…あれはもう終わりだ。直に消える)


 頭を失くしても隊士の少年へと進む鬼の姿に、義勇はそれ以上手を出さなかった。
 例えその足が辿り着けたとしても、もう何をする力も残っていないだろう。

 日輪刀で頸を斬ったのだ。
 直に鬼の体は消滅する。






 ──…毎日毎日、父と母が恋しくて堪らなかった

 偽りの家族を作っても虚しさが止まない
 結局俺が一番強いから、誰も俺を守れない庇えない

 強くなればなる程、人間の頃の記憶も消えていく
 自分が何をしたいのかわからなくなっていく

 俺は何がしたかった?

 どうやってももう手に入らない絆を求めて
 必死で手を伸ばしてみようが、届きもしないのに






 ふらつく足首が、ぼろりと崩れる。
 それ以上体を支えていることができずに、累の体はどさりと倒れた。
 伸ばした手のすぐ先には求めた本物の兄妹。
 彼らを手中にしたとしても、何も己には残らない。
 それがわかっているのに手を伸ばしてしまう。

 否。
 わかっているから這いつくばるのか。


「……」


 血の気の退いた青褪めた顔で、ゆっくりと兄が顔を上げる。
 力の残っていない体に鞭打ち、目の前で崩れる手を縋るように伸ばす鬼の体を見た。
 頸は遥か後方に転がっている。
 傍から見れば悍(おぞ)ましい鬼の姿だ。

 なのに兄である少年は哀しげな表情を浮かべていた。

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