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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔



(…偽物だったんだ。この、絆は)




 本物ではなかった。

 ぼんやりと見上げる月明かりの空の下。
 呆けたように縁側に一人、座り込む。
 両親を殺したというのに哀しみ一つない。
 ただただ虚しさだけが心を覆った。




『…──ぁ…』




 静かな夜だった。
 だからその声も拾えたのだろう。

 父とは違い、まだ微かに息の残っている母の呼吸。
 その消えゆく呼吸の中で、母はまだ泣いていた。
 ぽそりぽそりと何かを紡いで泣いている。
 まだ自分を叱咤するつもりなのかと、ぼんやりと見下ろした。




『…め…ね…』




 泣き声。
 そこに入り交じるのは、か細い謝罪。




『丈夫な…体に、産んであげ…られ、なくて…』




 何度も何度も。




『…ごめ、ん…ね…』




 ごめんねと、累を思い泣いていた。




『──っ』




 言葉を失った。
 ぼんやりとしか見えていなかった世界が、初めて明確に累に訴えかけてきた。

 謝罪を最後に事切れた母。
 もう動かない亡骸を前にして、母は現実から目を逸らしてなどいなかったことを知った。






『大丈夫だ、累…一緒に死んでやるから、な…』






 刃を向けて涙する父は、そんなことを言っていた。
 殺されそうになった怒りで理解できていなかったが、父は息子を見放していた訳ではなかった。
 人を殺したその罪を共に背負い、死のうとしていたのだ。

 その瞬間に、唐突に理解した。
 本物の家族の絆を、自分はこの手で断ち切ってしまったのだと。




『…ぅ…ぅ、ぁ…』




 言葉にならなかった。
 強い後悔と懺悔の思いで押し潰されそうになった。




『全てはお前を受け入れなかった親が悪いのだ。己の強さを誇れ』




 両親の亡骸を前に頭を抱える累に、無惨は淡々と告げた。
 それでもその言葉は、今の累には縋り付ける唯一のものだった。

 そう思うより他、どうしようもない。
 自分のしてしまったことに耐えられなくて。
 例え自分が悪いのだとわかっていても。

 仕方がない。
 そうなるべくしてなった。
 この世が、親が、全ては悪いのだ。

 そう言い聞かせた。



 何度も、何度も。

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