第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
(くそ…くそっ殺す、殺す! あの兄妹は必ず…!)
頸を斬り落とされ地に落ちる。
上下逆さまとなった世界を睨みながら鬼は尚、義勇の後ろで倒れている少年を睨み付けた。
否、少年は倒れてはいなかった。
妹である少女を守るように覆い被さっている。
自分の命が危機に陥っても尚、家族を守ろうとしている。
それは鬼が真に求めた絆だった。
『累は何がしたいの…?』
何故その問いが今、思い出されたのか。
下弦の伍。
鬼の名は累(るい)と言った。
この那田蜘蛛山で他の鬼を家族として囲い、組織を作り上げた。
問いかけてきたのは、母の役目を与えた小さな子供の鬼だった。
累に姿を真似させ、母という偽りの器を与えた。
その役目を全うできなければ、その度に罰を与えた。
その日も母の癖にぐずぐずと弱音を吐くものだから。親は子を守るべきものだと、体に染み込ませる為に片目を抉った。
痛みで絆を作れば、家族は恐怖で足を止める。
己の命を賭してでも、末子である累を守ろうとする。
そう求めた。
なのに問いかけられた言葉に答えられなかった。
何故こんなことをしたがるのか。
それは、累に人間の頃の記憶がなかったからだ。
(そうだ…俺は)
偽りの恐怖の絆で固めた家族。
父も母も兄も姉も役目としては不十分で、結局は累を守りきることなく死に至った。
そんな中、見つけた人間の兄と鬼の妹の絆。
本物の家族だった。
本当の絆だった。
本物の家族の絆に触れたら記憶が戻ると思った。
何故こうも家族というものに執着するのか。
自分の欲しいものがわかると思った。
故に禰豆子を手中にしようとしたが、兄妹は絶対なる累の力を前にしても屈さなかった。
それが気に障って仕方なかったのだ。
(俺は)
家族にしては、消えていった鬼達。
顔や体を異型にまでして強くしてやったというのに。
最後には累を守ることを放棄して、自らの保守に走る。
これが死ぬ間際に見る走馬灯なのか。
次々と浮かぶ鬼達の顔の中に──知らない顔を見つけた。
『──累』
男と女。
寄り添い愛おしく呼ぶ声に、記憶が冴える。
もう血も巡らないというのに。
はっきりと蘇る記憶は──遠い遠い過去のもの。