第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
小さな鬼だった。
見かけは十歳程の幼い少年。
しかし真っ白な頭髪に真っ白な肌、そこにぽつぽつと浮かぶ斑な模様は、明らかに人成らざる姿。
鬼は、両手を広げ赤いあやとりのような紐を複雑に結び広げていた。
(血鬼術か)
先程の鬼と対峙した時とは違い、気配をぎりぎりまで静める。
悟られぬように走り向かいながら、義勇は鬼が凝視しているものに気付いた。
少年だ。
隊服を着た少年が一人、地に伏せている。
動けないのか、逃げることも抗うこともしない少年の真上には、鬼が両手で広げたあやとりと同じような赤い血の糸があった。
少年を覆い囲うように被さろうとしている。
悪寒。
あれに触れられれば少年は死ぬ。
チキリと刀の刃を真上にして構える。
少年の数m手前で地を蹴り跳ぶと、義勇はドーム状に覆おうとしている糸の網を下から払うようにして日輪刀で破り去った。
波間が起こる。
刃から生まれた水が、赤い糸を散り散りに斬り裂いた。
「…っ…」
伊之助の時のように、少年は起き上がらなかった。
立ち上がる力も残っていないのだろう。血に塗れた顔で、朧気に目の前に立つ背中を見上げる。
救いの手が来たのか、それさえもよくわかっていない。
満身創痍。
果てるまで力を使い果たした少年の目に、ぼんやりと映る半柄羽織。
癖の強い黒髪を一つに結んだ、男の背中。
「俺が来るまでよく堪えた」
その声に少年は聞き覚えがあった。
「後は任せろ」
朧気だった瞳が、驚きに満ちる。