第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
『…しょ…ま…だ…!』
さくさくと足を進める義勇の背に、ぶつかる罵声が遠のいていく。
(まずは一人。隊士は他にもいるはずだ)
見掛けた繭玉は数十個。
那田蜘蛛山で消息を絶った隊士達の数は、まだ多い。
最後に聞いた情報後、更に此処へ足を運んだ隊士もいるはずだ。
これだけの犠牲、これだけの流れた血。
まるでその血を吸い上げているかのように、この山は鬱蒼とした重い気配を纏っている。
あの異型の鬼を滅しても尚、気配が消えないのはまだ斬るべき鬼がいるからだ。
そしてその鬼は先程の異型の鬼よりも強い。
ピィと指笛を鳴らせば、待機していた鎹鴉が舞い降りてくる。
「隊士を一人保護した。怪我を負い重症だ。救護班の隠を向かわせろ」
「了解ジャ」
萎びた頭を下げると、ぷるぷると震えながらも再び義勇の腕から飛び立つ。
夜の空に舞い上がる黒い翼を見送り、更に義勇は北へと向かった。
重々しい空気は、進めば進む程感じられるようになった。
道中、鬼らしい鬼にはまるで出くわさない。
それが答えだ。
(この先の鬼が、恐らくこの山の主)
この重々しい空気を作り出しているのは、恐らく一体の鬼だ。
それがこの山を牛耳り、異型の鬼を作り出し、隊士達を喰らっている。
(上級の鬼…か、まさか)
先程、伊之助が喚いていた単語を思い出す。
もしかすると本当にこの山には十二鬼月がいるのかもしれない。
それがもし上弦の鬼であれば、状況は一変する。
唯一の救いは、しのぶが向かった先にその鬼はいないということだ。
それは義勇が向かう先にいる。
ぞわ、と感じた悪寒は唐突に。
他の気配を察知する能力に長けているものの、義勇は特別鼻が利く訳ではない。
なのに急に血の臭いが濃くなった気がした。
人一人が死んでも可笑しくない程の大量の血の臭い。
隊士か。別の何かか。
急速に義勇の足が速まる。
地を蹴り葉を揺らし木々を追い抜く。
今度は鬼の姿を確認する前に日輪刀を抜いた。
びりびりと肌に伝わる殺気。禍々しいその気配に直感した。
視界の端に捉える。
真っ白な小さな人影。
(あれだ)
それが、捜していた鬼だと。