第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「オレはそれをそのまま言っただけだから──」
パン
「な。」
は、と体が固まる。
目の前を通り過ぎる義勇の手が、一仕事終えたかのようにパンパンと埃を払っている。
ぎしりと揺れる。
それは木の枝に結ばれている一本の縄から立つ音。
その縄は、先程まで義勇の手に握られていたはずだ。
それが何故、伊之助の胴体を縛り枝にぶら下げられているのか。
「な…!(なんだこれ!? 縛られてる!?)」
驚き言葉を失った伊之助の目が、己の縛られた体と義勇の背中を交互に見やる。
(は、速ェ…速ェこいつ!!)
縛り上げられた過程に気付く暇もなかった。
伊之助が頭を怒りで真っ赤に染めている間に、義勇は邪魔な足手纏いを一人片していたのだ。
「ってオイ! 待てコラァ!!」
「己の怪我の程度もわからない奴は戦いに関わるな」
「ッ…!」
足早に去る義勇の背中が茂みに隠れていく。
告げられた言葉にはっとしたように息を止めた伊之助だったが、すぐにその猪頭は再び憤怒した。
「って聞こえねぇよ! 速ェんだよ歩くの!!!」
ぼそりと告げた義勇の忠告は、猪の分厚い毛皮で囲われた伊之助の耳には届いていなかったようだ。