第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
伊之助は、他人への感情を弱き者か強き者の二択で計る少年だった。
赤子の時に捨てられ、猪に育てられた。
その時からずっと、弱ければ死に強ければ生きる、獣の掟の世界で生きてきたからだ。
獣の世界は弱肉強食。
相手を負かし踏み台にすることによって己が最も強き者となる。
それだけを目指す伊之助の猛威に、しかし義勇は眉間に皺を作り上げた。
「修行し直せ、戯け者!!」
初めて伊之助に向けて発した言葉は、厳しい一喝。
「な…何ィイイ!?!!」
ぽかんと言葉を失っていた伊之助の猪頭が、憤怒で沸き立つ。
「今のは十二鬼月でもなんでもない。そんなこともわからないのか」
〝十二鬼月(じゅうにきづき)〟
それは鬼の始祖である鬼舞辻無惨が直属に傍に置いている、十二体の配下の鬼のことである。
更にそこから上弦の鬼と下弦の鬼に分けられ、強い者から若い数字を与えられていく。
名もなき鬼より、下弦の鬼。
下弦の鬼より、上弦の鬼。
そうして鬼殺隊の階級のようにランク付けされていくのだ。
義勇は一目で見抜いていた。
屈強な異型の鬼は、その十二鬼月にも及ばない鬼であることを。
するすると懐から縄を取り出しながら淡々と告げる義勇に、伊之助も負けじと声を張り上げる。
「わかってるわ! 十二鬼月とか言ってたのは炭治郎だからな!!」
正直なところ、わかってはいなかった。
先程まであの鬼が十二鬼月であるとすっかり思い込んでいた。
しかしそんなことを告げれば、目の前の男は更に呆れ叱咤するだろう。
だからこそ認める訳にはいかない。