第4章 柱《壱》
じゃあやっぱり蜜璃ちゃんは柱で、これから会う人間がいればそれもきっと柱で
「あ! 不死川さんだわ!」
出た。
柱って皆夜の散歩でもしてるの?
それとも蜜璃ちゃんみたいに覗き見が趣味なの?
それに、しなずがわ?って名前? 苗字?
柱の人間って凝った名前が妙に多い。
覚えられるかな…。
「あァ? 何してんだァお前ら」
その男は満月を背に立っていた。
逆光でよく顔は見えないのに、目が合ったような気がした途端、体に悪寒が走った。
「っ…」
同時に、どくりと自分の血管が脈打つのが、何故か鮮明に聴き取れた。
「そいつァ……おい。鬼を連れ回してるって噂は本当だったのかァ、煉獄」
「ああ! "鬼"というものを知る為だ!」
「鬼は敵じゃなかったのかァ?」
「そうだ、その敵を知る為だ!」
「知る必要なんてねぇだろ、敵は皆殺しが基本じゃねぇか。何平和ボケしてんだ。なァ」
ざくりざくりと草を踏む。
その影が一歩近付くごとに纏う"匂い"が強くなる。
血管の中の血が沸き立つ。
肌に汗粒がじとりと浮かんだ。
…まずい。
「いくらお館様の命とは言え、そんなクソ塵がのうのうと生きてるなんざ胸糞悪ィ」
ざくりと草を踏む足が止まる。
目の前に立つ男の背丈は、杏寿郎と然程変わらない。
だけど顔や体中の至る所に走っている目を背けたくなるような大きな傷跡や、血走ったような見開いた眼孔の主張が強くて。
ぶるりと体が震えた。
まずい。
「おい鬼ィ、テメェの頸を差し出せよ。大人しくするなら、一瞬で殺してやる」
帯刀している刀の鞘に男が触れる。
それだけのことで、場の空気が一変した。
ぴりぴりと空気が殺気立つ。
急速に死が迫る感覚。
逃げ出したい。でも逃げ出せない。
その理由は自分が一番よくわかっていた。
目の前の男からは、強くて濃いあの匂いがする。
「ダメよ不死川さん! 蛍ちゃんは殺しちゃダメだって、お館様から命じられているじゃないッ」
「そいつは足を滑らせ崖から落ちた。両足を潰して動けなくなっている所で朝日を浴びた。それならまかり通んだろォ」
「そんなのまかり通っちゃダメ! 蛍ちゃん、今日はもうお開きに──」
「っ…ふ…」
「…蛍ちゃん?」