第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
隊士が身に付けているはずのもの。
欠けたその一部と、鼻を曲げる程の異臭と、赤黒い液体。
全てを結び付ければ最悪な答えが導き出された。
「これは鬼殺隊の隊士だ」
隊服も体も、そのままに。
全てが溶けて分解されている。
静かに告げる義勇の答えに、しのぶの目が見開く。
見渡したその場限りでも、大きな糸玉は数十個。
その全てに、隊士であったものが入っているのだとしたら。
糸玉から人の気配は感じられない。
中を開かずとも結果は見えた。
「…まるで繭玉ですね…」
怯えたように肩に停まっていた雀が、しのぶの気配に更に身を縮ませる。
「これだけの血鬼術を使える鬼となると、辛(かのと)程度の隊士では歯が立たないだろう」
鬼殺隊の剣士達全てに階級があり、功績によって昇格していく。
辛は最下位から上がり三番目。
それをも簡単に喰らってしまうとなれば、中級以上の鬼となる。
「状況が変わりましたね。いち早く生きている隊士を見つけないと」
「チュンッ! チュン!」
「…もしかして隊士に関わることを知っているんですか?」
「チュン!」
「言葉はわかりませんが可能性はありそうですね」
小さな嘴で羽織の裾を啄み、先へと促す雀が向かう方角は大量の繭玉が続いている方だ。
その先にはきっと鬼がいる。
「その先は胡蝶がついて行け」
「冨岡さんは向かわないんですか?」
しかし雀の行動に目も来れず、じっと義勇は黒い瞳を一点に向けていた。
大量の繭玉の先は南南東。
義勇が向いている先は北だ。
「その雀が向かおうとしているのは東だ。山中の僅かな人の気配は別にもある」
「いつもなら群れない冨岡さんに注意するところですけど…今回はその意見を採用しましょう」
人の気配は疎(まば)ら。
雀が向かう先には確実に鬼がいるだろうが、繭玉の主ならばしのぶ一人でも片付けられる。
問題はその気配が一つではないこと。
悠長に構えている時間はない。
「互いの任を終えたら、相手先へ向かうということで。では」
不穏な空気を感じてからの行動は早かった。
ふわりと宙を舞うように蝶のような羽織を靡かせたしのぶの姿が闇へと消える。
それを見送ることもなく義勇も地を蹴り上げた。
残されたのは、血肉を抱えた繭玉のみ。