第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「悲鳴嶼殿には事を伝えておこう。それと、やはり君から完全に目を放す訳にはいかない。故に監視を付けることとする」
「監視?」
誰が?
玄弥くんはやりたがらないだろうし、悲鳴嶼行冥も柱の仕事があるだろうし…適任でもいたかな。
頸を傾げてみれば、杏寿郎の目線が上を向く。
つられて番傘の下から見れば、そわりと肌が騒ぐ。
日は差していない灰色の空でもわかった。
──夜明けだ。
❉ ❉ ❉
「随分と深い森ですねぇ」
「……」
「ねぇ、冨岡さん」
「……」
「冨岡さん? 聞いてます?」
「探索中だ。話しかけるな」
「それは失敬」
月明かりも及ばぬ深い夜の森。
しかし躓くこともなく、さくさくと進む二人分の足。
男性のものと、小柄な女性のもの。
那田蜘蛛山(なたぐもやま)。
そう名付けられた山は背の高い林が多く、地面は剥き出しの土ばかり。
義勇としのぶ。
二人が山へと踏み込んでから、数刻の時間が過ぎていた。
「鬼の気配はありました? と言っても何もなさそうですが」
「鬼の気配はない。しかし人の気配はある。十中八九、消息を絶った隊士達は此処にいるはずだ」
「だといいですけれど…柱二人も狩り出されて何も収穫はありませんでした。じゃ、不死川さん辺りにどやされそうですからねぇ」
「……」
「眉間に皺、刻んでますよ」
容易に実弥の姿が想像できたのだろう。無言で眉間に力を入れる義勇の顔に、くすくすとしのぶは可憐に笑った。
「折角カナヲと隠さん達を待機させているんですから、収穫がないと困──」
「ヂュンッ!」
続くしのぶの声を遮ったのは何かの鳴き声だった。
同時に上を向く義勇としのぶの目に、高い林の木々が映る。
その隙間を縫うようにして飛んでいたのは小さな小さな小鳥。
茶と白の羽毛を持つ、一羽の雀だ。
「あら、可愛らしい」
「チュンッチュンチュン!」
「ええと…私に用ですか?」
雀は酷く慌てた様子で、しのぶの周りを飛び回った。
何かを伝えようとしているところ鎹鴉と同じ類の使いなのか。
「お腹でも減ってるのかしら…」
「チュンン!」
「じゃ、なさそうですね」