第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「君がそう言うのなら致し方ない。しかし何かあれば呼ぶんだぞ。山を下りる際も、呼ぶように」
「わかった。連絡は…」
「鎹鴉を使えば──」
そう提案する杏寿郎と私の真上で、ばさりと羽音が一つ。
見上げれば、白けた空に浮かぶ真っ黒な翼。
噂をすればなんとやら、だ。
ばさっと今一度羽音を立てて、大きな黒い鳥が杏寿郎の差し出した腕に停まる。
「伝令。次回柱合会議ノ延期、トノコト」
きちんと羽を畳んでから静かに告げるその言葉に耳を疑った。
柱合会議の延長? なんで?
「冨岡義勇、胡蝶シノブ。以下二名ガ遠征ヨリ戻ルマデ会議ハ延期。他柱ハ待機セヨ、トノコト」
「成程。そうなるであろうとは思っていた」
「義勇さん達が出発して五日目だけど…まだ任務は解決してないってことなのかな」
「だろうな。那田蜘蛛山に辿り着くだけでも時間は掛かる。しかし来週の会議が無期限の延長とは…余程のことがあったか」
「余程のことって?」
「……」
沈黙で返す杏寿郎に一抹の不安を覚える。
那田蜘蛛山なんて聞いたことのない山だけど、名前だけでも異様な感じはする。
其処で隊士達の消息が次々途絶えてたんだから、きっと何かが起こっているんだ。
「案ずることはない。増援ではなく延長だけの連絡ということは、二人共無事ということだ。柱が二人もいれば十二鬼月と遭遇しても太刀打ちできる」
「そう、だよね」
その十二鬼月の強さは知らないけれど、義勇さんも胡蝶も強い。
簡単にはやられないはずだ。
「彩千代蛍」
徐に、膝に置いていた手を握られる。
この呼び方は何か大事なことを告げる時のものだ。
顔を上げれば、強い意志を持つ瞳と目が合った。
「此処での稽古は今週までだ。その先の天候は俺も知らないし、万一会議が早まる可能性もある。その前に君を迎えに来る」
「わかった」
期限は数日。
…残された私の命の期限も、数日。
その間に本当にあるかもわからない奇妙な力を、どうにか形にしないと。