第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「ただし懸念もあるな…何を言ったとて異能は鬼の力。それを開花させることは、蛍少女の鬼化を進めることもあるやも…」
鬼化?
そんな単語初めて聞いたけど。
私はもう鬼でしょ。
それ以上に鬼となるってことは…人の心じゃなくなるってこと?
「むむ…」
難しそうに己の顎に手を当てて考え込む杏寿郎に、不安が残る。
杏寿郎は、私みたいな鬼は初めてだって言ってた。
なら今まで杏寿郎が見てきた異能の鬼達は、当然の如く人間を餌にしていた鬼だ。
人を喰べない選択をした私が、果たしてそんな力を手に入れられるのか。
手に入れたとしても…正気を保ったまま操ることなんてできるのか。
どっちに転んでも不安はある。
だけどそれは一種の希望だ。
もし本当にそれが異能の力だとして、もし本当にそれを手中にできたら。
道は…拓けるのか、な。
「可能性として考えるならば、まずはお館様にご報告を…」
「杏寿郎」
「ん?」
「私、暫く此処で岩柱の稽古をする」
反復動作がきっかけなら、ものにしたい。
その為には環境の厳しい此処での訓練が一番の近道だ。
「そうか! ならば俺も」
「杏寿郎は柱の仕事もあるでしょ? 此処に泊まり込みになると思うから、ずっとはつき合わせられないよ」
「むぅ。しかしだな、冨岡にも蛍少女のことは任されてあるし…」
「何かあれば近くに岩柱がいるから。あの人なら大抵は対処できるでしょ?」
「それはそうだが…蛍少女はいいのか? 一人で朝を毎度此処で迎えるんだぞ」
それは…確かに、怖い。
もし万が一太陽が顔を出したら。
そんな不安に苛まれながら野外で過ごすなんて、考えただけでしんどい。
でも甘いことは言ってられない。
可能性があるなら、それを手に取らなきゃ。
「覚悟はしてるよ。だから、大丈夫」
真正面から杏寿郎の視線と向き合う。
そうして己の思いを伝えれば、杏寿郎はそれ以上の異議を唱えなかった。