第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「個々によってその能力は異なる。俺の知っている限りでも、自然系のものから幻術や幻惑を生み出したり、武器を錬成したりするものも。空間を操ることが可能な能力もあると、噂で聞いたことがある」
「そう…なんだ。凄い」
鬼が脅威となる理由が一つわかった気がした。
何もないところから何かを生み出したり、そんな奇天烈な現象を起こせるなんて。
神や仏以外にそんな存在、地上にはいないはずだ。
鬼殺隊の呼吸法を知った時も驚いたけど、あれは絶え間ぬ努力と洗練された精神によって可能にしているものだ。
道理を突き詰めれば無理なことじゃない。
でもその鬼の異能というものは。
「でも、その異能って強い鬼が持てるものなんでしょ?…私は…」
強い鬼じゃない。
他の鬼と比べたことがないからはっきりとは言い切れないけど。
でも初詣に出会った童磨や妓夫太郎達は私より強い。
それはきっと…人を、喰べているから。
「私は…そんな、強い鬼じゃないし…」
私も、人を喰べた。
そこは否定できなかった。
でも沢山喰べてきた訳じゃない。
やっぱりその異能と、私のそれは違う気がする。
「道理で言えばそうだろう。しかし前にも言ったように、俺は君を弱き者とは思っていない。他の鬼が人を喰らうことで強さを得ることとは違う。君自身が定めた道で、確かに強さへと近付いているように思う。それは間違いか?」
「…ううん」
杏寿郎の静かだけど強い言葉に否定なんて見つからなかった。
今の私を見て、今の私を認めて、受け入れてくれたから。
そこに異議なんてない。
「もしや人を喰らわずとも異能は身に付けられるかもしれない。蛍少女、君なら」
「でもそれって、いいことなの?」
「どうだろうな。ただ強さがあれば、道が拓ける。進みたかった地を踏める。大切なものを守れる」
「道が…拓ける」
それはとても魅力的な言葉だった。
確かに私は柱に、お館様に、認めて貰う為に強さを欲した。
強くなれば飢餓症状も抑えられると思ったからだ。
私の心は人で在り続けられると。
異能が私に何をもたらすかはわからない。
でも何もしないよりは漠然とでも進んでいたい。