第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「気にすることはない」
「え?」
「不死川少年の反応は鬼殺隊として当然のものだ。蛍少女だったからではない」
本当に私の心はお見通しだなぁ…。
でもそれを言えば鬼に対して皆、その反応が当たり前ということで。
杏寿郎にとっては普通のことだったかもしれない。
でも鬼である私にとっては、それは普通のことじゃなかった。
鬼は人を喰べる。
それは出会った童磨達の存在ではっきりした。
でも、同時にそれだけじゃないことも知った。
だから割り切れない。
鬼は畏れ憎まれて当然だということに。
「それより気になる点が別にあるんだが…」
沈黙を作っていれば、杏寿郎が静かに問い掛けてきた。
「最後に行った滝行で、僅かながら君の身の周りに異変が見受けられた。その時、君自身はどんな状態だったんだ?」
それは滝行を終えた直後にも問われたことだった。
私はよくわからない。
だってそんな片鱗、見てないから。
玄弥くんに言われるままに反復動作を行おうとした。
怒りや痛みの記憶を思い出せと言われたから、その通りにしたんだ。
私にとっての痛みは、胡蝶に強制されていた度重なる拷問じゃない。
姉さんを失くした時の、あの、耐え難い世界を引き裂かれるような痛み。
目の前が真っ赤に染まる程に溢れた憎悪を、周りにぶち撒けた。
過ぎ行く時間の中で、少しずつそこに蓋をして漏れないようにしていたもの。
それをほんの少しだけ開けた。
そんな感覚だった。
気付いたらうねる水の中にいた。
そして玄弥くんの憎々しげな眼光を受けていたんだ。
「…よくわからない。反復動作をしようとしただけだから」
「反復動作か…人にとって極限の力を引き出す為のあらかじめ定めた作法のようなものだ。だとすると鬼である蛍少女にとっても、その秘めたる力を引き出す為のきっかけとなるやもしれないな」
「秘めたるって。そんな力なんて持ってないよ」
鬼として、人より生命力と力があるだけだ。
「冨岡から聞いてはいないか? 鬼は人を喰らうことで強くなる。強さを増した鬼の中には、異能の力を持つ者も現れる」
「異能…?」
確かに義勇さんに聞いたことがある。
さらりとした説明だったけど。