第2章 今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを
「ぁっ…は…!」
「汗が出てきましたね。顔色も悪い。気分はどうですか?」
手足がびりびりする。
吹き出た自分の脂汗で、掴んでいた肘掛けが滑る。
みしりと軋んだ木製の肘掛けは簡単に拉(ひしゃ)げてしまった。
「また直さないと」なんて呟いている胡蝶しのぶの姿だけが、この場にそぐわなくて目眩がする。
違う、本当に目眩がしているんだ。
体に流し込まれた毒の所為で、頭の中がグツグツと煮え滾っているようだ。
気持ち悪い。吐き気がする。
体中が痺れる。目眩がする。
のたうち回りたいのに、椅子に縛り上げられた体はそこから抜け出せない。
ただの縄ならこれくらい引き千切られるけど、胡蝶しのぶの用意する縄からはいつも抜け出せない。
雁字搦めに縛り上げられて、少しずつ毒を盛られていく。
最初はほんの数滴。
徐々にそれを増やされて、意識が途絶えるまで。
「ああ、そろそろ限界ですね」
もう手足の感覚もない。
血反吐をごほりと吐いた先で、見下ろす綺麗な女の顔が霞む。
このまま意識が何処かへ飛んでいくかと思った途端、鋭い痛みが体に走った。
「あ、あ"ッ!?」
「大丈夫ですよ、これで毒は入ってきませんから」
視界に真っ赤な新血が飛ぶ。
体を引き裂かれるような痛みは幻覚じゃなく、本当に引き裂かれていた。
肩の付け根からすぐ下の腕が、ない。
微笑む女の手によって、青紫色に変色した自分の腕は斬り取られていた。
「さあ、次は足で試しましょう。新しい毒がどこまで貴女の体に効くのか、まだまだ知っておきたいので」
「ぁ…ぁ…ぃ、ゃ…」
「はい?」
「痛い…のは、ぃゃ…ゃめ、て…」
縋るように残された手で羽織を掴む。
淡い桃色が先に霞がかったように染められた綺麗な羽織だ。
私の鋭い爪は、いとも簡単に羽織に傷を付けてしまう。
ざわ、と嫌な色が映えた。
「痛いのは嫌なんですか? 腕を千切られたり、臓物を垂れ流したり、目玉を抉り出したりするのは嫌ですか?」
「ぁ…ぃ、嫌…」
それは全部今まで私がされたことだ。
綺麗な顔を一つも崩さない、この女の前で。
また体を引き裂かれる?
「可笑しいですね」
ざわりざわりと赤銅色が濃くなる。
「貴女も同じことをしてきたのに」