第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
ごぼりと口から空気の気泡が浮かぶ。
引き込まれたのは滝の中。
上から叩き込まれる重い水に、体は忽ちに水中へと巻き込まれた。
視界がぐるぐる回る。
荒ぶる水の中で上手く身動きができない。
川はこんなに深かったか?
腰までしかなかったはずだ。
それとも深みにでも落ちたのか。
ごぼごぼと気泡が上がっていく。
周りは墨で塗り尽くしたかのように真っ黒だ。
何も見えない。
何も──
「っ…?」
一点の、光があった。
地上なのかと必死に手探りで水を掻く。
上手く前には進めない。
それでもどうにか躙(にじ)り寄った目が、ぼやける水中でそれを捉えた。
光は、二つの赤い玉だった。
そこから感じるドス黒い色。
暗い川の底で、尚も深い色で形を作っている。
それは人型のようなものだった。
その顔の中心にあるのは、縦に眼孔が割れた二つの眼。
あれは。
あの眼は──
「!?」
ゴウッ!と風の唸り声のようなものを聞いた。
瞬間、急速に渦を巻く水に体が流される。
目の前の人型がわからなくなる。
左右上下に目が回って、もう、息が…ッ
「っげは…!」
空気が肺に舞い込んだのは、瞬く間だった。
急な解放感に咳き込む。
「げほッゴホ…!」
「無事か。玄弥」
「ッひ、め…さ…ッ」
オレの腕を掴み、水の上に引き上げてくれていたのは悲鳴嶼さんだった。
頭まで覆う程の深みの水は、いつの間にかなくなっていた。
足が水底に付く。
──違う。
水底がない。
視線を下げれば、今し方川だった場所はほとんど地面が見える程の浅瀬になっていた。
巨大な力が川を横切って地を抉り、黒い川を押し流す道を作っていたからだ。
巨大な力は…多分、悲鳴嶼さんが手にしている日輪刀。
大振りな斧と巨大な鉄球が付いたあの日輪刀なら、川をもう一本作ることだってできる。
「悲鳴嶼殿、不死川少年は!」
「問題ない。怪我もなさそうだ」
「そうか! では、」
同じく日輪刀を抜刀はしていないものの、鞘に手を掛けた煉獄さんが何かを見ている。