第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「うーん…杏寿郎は、私を継子にしてくれたけど…周りに認められているかどうか…」
両手で握った湯呑みを見つめながら、浮かべる笑みは何処となく苦い。
…つーか、なんだそれ。
「周りが認めるも何も、煉獄さんとあんたが認め合えてりゃいいじゃねぇか」
「え?」
「オレだって完全に周りに認められた訳じゃない。でも悲鳴嶼さんだけが此処に置いてくれたんだ…だからオレはあの人の継子になった」
呼吸も使えない、日輪刀も光らない。
剣士として致命的なオレに、居場所を与えてくれたのは悲鳴嶼さんだ。
最初は、やっぱり鬼殺隊を辞めるように言われた。
オレの覚悟をなんにも知らない癖にって癇癪を起こしちまったが、そんなオレに悲鳴嶼さんは常に冷静だった。
だからこの人の下で強くなろうと思ったんだ。
確かに修行は厳しいし、時に苦しいことも言われるけど…弱音だけは言いたくなくて。
必死に食らい付いていけば悲鳴嶼さんも応えてくれるようになった。
オレに此処に残る選択肢を与えてくれた。
今では心の底から尊敬している、オレの師だ。
「だから他人がどうこう言おうが関係ねぇだろ。お互いがそう思ってんなら」
…オレだって。
本当に認めて欲しい人には認められていない。
「…そ、っか…」
まじまじと見てくる両の目が瞬く。
かと思えば、さっきの苦い笑みが一変。
まるで花開くように変化した。
「私も、そんなふうに思えるようになりたい」
「…なりゃいいだろ」
「うん。願望を結果に変えるのって難しかったりするけど…頑張ってみる」
ただ認め合うだけのことを、どう頑張るのか。
そこまで大層な覚悟がいるもんかと思ったが、問うのは止めた。
オレもそうだった。
こいつも、鬼殺隊に入ったのならそれなりの事情や覚悟があったはずだ。
まぁどうせ、あの煉獄さんのことだからきっと──
「さぁ! 仲良しごっこは終了だ! 稽古の時間だぞ!!」
「仲良しごっこて。吃驚したなぁもう」
「表へ出ろ! 蛍少女!!」
「はいはい」
襖をバシン!と勢い良く開けたかと思えば、有り余る大声で呼び掛けてくる。
初めて会った時から乱れのない、煉獄さんのその性格なら。こいつのことも引っ張っていってやれるんじゃねぇかな、と思う。