第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「休憩を挟んで、また滝行からだ」
え。今の空耳?
空耳が聞こえたのかな?
上がらない顔を地べたに張り付けたまま、目だけで声の主を追う。
すると光のない目はこっちを向いて…あ空耳じゃないんだ…。
またこれ繰り返すんだね……死ぬ。
「…も…おて…か、に…」
「ん? なんだ蛍少女。今も声が聞こえてないぞ!」
どうにか止めようと声を上げるも、息をするだけで精一杯。
打って変わってハツラツとした顔を向けてくる杏寿郎にも届かない。
元気そうで何よりです。
「…あの、」
「む?」
「どうした、玄弥」
「その…もう少し、度合いを緩めてやったらどう、かと」
三人しかいなかったはずの場に別の声が混じる。
其処にいたのは、いつから見ていたのか、きちんと乾いた服を着ている玄弥くんだった。
あ、義勇さん達と同じ隊服を着てる…やっぱり剣士なんだ。
「初めてにしては、少し厳しいと言うか…オレでも岩乗せの岩なんて、押したことないのに」
…なんですと。
じゃあ何か。
この訓練は私だけ特別内容になってたってこと?
ずっと悲鳴嶼行冥の継子をしている玄弥くんでさえしていないような訓練を、初日からぶっ込まれてたってこと?
鬼か。
「げ…んや、くんに…一票」
よろよろと力の入らない手を挙げる。
多分、私が鬼だからそこまで厳しいものにされたんだろうけど。
逆に言えば鬼だからってなんでもできる訳じゃない。
そんな簡単に物事を進められていれば、こんな所にまで来ていない。
「ふむ…確かに、不死川少年の言うことも一理ある。悲鳴嶼殿」
「…では本来の順序でいこう。まずは滝行にて念仏を全て唱えられるまで精神統一が可能となること。それが第一歩」
本来の順序って。
つまり、いきなり三つも訓練を受けるなんてあり得ない順序だったってこと?
…荒い。
鬼使いが荒過ぎる。
「じゃあ、それで…お願い、します」
ようやく起こせるようになった体を持ち上げて、ぺこりと頭を下げる。
幾ら春先と言っても、こんな骨身まで凍えそうな冷水での夜の滝行なんて辛いけど。
仕方ない、やるしかない。
だって自分から言い出したんだから。
やり終えないと、きっと帰れない。
…我ながら無謀なことを口走ったものだ。