第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
かと思えば、そう甘くもなかった。
ドドドドドド
「ちっ…ちぇ…べ…!」
「なんだ!? 声が聞こえないぞ!」
「背筋が丸くなっている。姿勢は曲げぬことだ、顔を上げろ」
最初に放り込まれたのは、玄弥くんも入っていたあの滝だった。
初めて滝行なんてしたけど、これが凄い。
何が凄いって水の冷たさ。
極寒の地にいても此処まで寒くないんじゃないかって思う程、全身が凍り付くようだ。
なんたって冷水を頭から浴びているんだから。それも何貫もの、上から叩き付けられるような強打で。
悲鳴さえも満足に上げられない。
合掌をするだけで精一杯だ。
「ふ、ふぐ…ぐ…!」
「うむ! これは中々!」
「鬼子であれば丸太三本は軽かろう。もう二本追加だ」
冷えた体を温める暇もなく、次に向かわされたのは切り倒された巨大な丸太の山。
そこで紐で括られまとめられた丸太を持ち上げろと言われた。
三本までは、なんとかできた。
これでも鬼だ、鍛えた力は蜜璃ちゃんにも負けない。
なのにそれじゃ甘いと岩柱は言う。
結果、更に二本背中に背負わされて潰れかけた。
初見でいきなり五本とか容赦がない。
「ぅく…っ…!」
「一点集中だ! 岩の一点だけを押すことに意識を集中しろ!」
「呼吸の乱れは力の乱れに繋がる。動きが不安定であれば、上の岩も落ちてしまうぞ」
最後は岩を一町程、押す。
ただそれだけの作業。
でもその岩は人を十人束ねたような巨大なもので、更にその上にも小ぶりだけど立派な岩が乗っている。
それを落とさずに押せとか。到底無理な話だ。
ただ目の前のものに力を込めていればいいだけじゃないから、想像を絶する集中力を伴う。
なのに左右からやんややんやと…ちょっと煩いです静かにして下さい!
結果。
「ぜ…っひゅ…ひゅー…」
「正に満身創痍!だな!」
「滝行で唱えられた念仏は四半時。担ぎ上げられた丸太は三本。押せた岩の距離は三寸程…まだまだだな」
一通り終えた頃には、全身汗と水でずぶ濡れ状態のまま、地面に倒れて過呼吸並みの息継ぎしかできなかった。
こんな空気の薄い山奥で、こんな全集中の呼吸を延々続けながらの更なる筋力瞬発力柔軟力訓練とか…地獄以外のなにものでもない。
死ぬ。