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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第4章 柱《壱》



「…ふぐ」


 頸を横に振って、違うと意思表示する。
 五日前のあの怪我なら完治した。
 これは別のものだ。


「そうか! やはり鬼は治りが早いのだな!」


 いつもの張った声で、疑うことなく頷く杏寿郎にほっとする。


 私の体の治り具合も、胡蝶しのぶの研究対象となっている。
 最近は、その治りが遅いと彼女に指摘された。
 理由はわかっている。
 酷い怪我をすると同時に襲ってくる、耐え難い空腹が"それ"を求めるから。

 あの日から一度も、私は人の血肉を喰らっていない。
 あの日から幾度も、私は胡蝶しのぶの毒を喰らい続けている。
 それが徐々に体の再生能力を低下させているんだ。

 いつかぽっくり、毒の効果が勝って命を落とすかもしれない。
 それもまた自分の人生だと受け入れているけど…きっと胡蝶しのぶは受け入れていない。
 だからいつも研究という名の拷問の後は、しっかり止血と手当てを施してくる。

 炭治郎と禰󠄀豆子に会いたいという思いが出来てからは、ぽっくりこのまま死ぬのはいけないと思い始めた。
 でも気持ちに比例する程、私の体は簡単に出来ていない。

 いつか杏寿郎の言うように五日経っても、怪我が残る日がくるかもしれない。


 …そしたら私は、人として死ねるのだろうか。






「蛍ちゃん?」


 顔にかかる影に、覗き込む蜜璃ちゃんに気付いてはっとする。


「どうしたの? ぼーっとして。少し顔色も悪いようだけど」


 いけない。
 色々と考え込み過ぎていた。


「その口枷、苦しかったりする? さっきも笑い難そうだったし。あ! 可愛かったけれどねっ」


 親身に心配してくれる蜜璃ちゃんも、柱の一人。
 …この心配は、私の為にしてくれているのだろうか。

 それともただ、鬼に興味があるから?


「……」

「蛍ちゃん?」


 駄目だ、これじゃ負の連鎖だ。
 悪い方ばかりに考えてしまうのが嫌で、追い払うように頭を振った。


「そんなことないわ! 蛍ちゃんは可愛いッ可愛いからね!」

「……ふぐ」


 それがさっきの否定だと取ったらしい。
 握り拳を作って力説してくる蜜璃ちゃんに、なんだか気が殺がれてしまった。

 本当に、蜜璃ちゃんは自由だなぁ。

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