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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第4章 柱《壱》



「大変っ血が出てる!」

「血ィ?」

「む?」


 慌てる蜜璃ちゃんに、忍者と杏寿郎の目もそこへ向く。
 いけない。
 包帯を巻いてあったのに、血が滲み出てしまったんだ。

 蜜璃ちゃんの手を押し返して、着物の袖の中に腕を引っ込める。
 なんでもないと頸を振って、大丈夫なことを伝えた。


「そう? 痛くない?」

「ふぐ」


 大丈夫。
 こんなの掠り傷程度だから、すぐ治る。


「鬼なら放っておいても治るだろ。大騒ぎする程のことじゃねぇよ」

「ふぐ」


 忍者の言う通り。
 完治すれば傷跡も残らない。


「でも怪我すると痛いわ」

「鬼になりゃ体も頑丈になる。あれくらい、爪を剥がした程度だろ」

「爪!? そ、それって凄く痛くないかしら…!?」


「……」


 蜜璃ちゃんと忍者の会話に唯一入ってこない杏寿郎の目だけが、じっと私を見ていた。
 久々に感じた、突き刺さるような視線。

 …ううん、多分、杏寿郎の目は何も変わっていない。
 私が忘れていただけだ。
 杏寿郎と過ごす時間は、藤の檻の中で過ごすよりずっとあっという間で新鮮だったから。

 何をも見透かすようなその目は、私の怪我した左腕に注がれていた。


「前にも同じ箇所を怪我していたな。彩千代少女」


 かと思えば、いつもとは違う静かな声で問われる。
 ぎくりとした。


「その時の傷か?」

「……」


 いつの頃のことを言っているんだろう。
 憶えがなくて、だから頸を縦にも横にも振れない。


「前って、いつのこと? 煉獄さん」

「五日前だ」

「五日? そりゃ違ぇだろ。鬼ならとっくに完治してる」


 忍者の言う通りだ。
 五日もあれば、胡蝶しのぶに手足をもぎ取られて芋虫にされたって、元通りになれる。


「包帯が同じだったからな。同じものかと思ったんだ」


 淡々といつもと変わらない様子で伝えてくる杏寿郎に、自然と右手で怪我を庇っていた。

 やっぱり杏寿郎は、鬼殺隊の"柱"と成る人間だ。
 見ていないようで、ちゃんと色んな物事を見ている。
 他愛ない話をしている最中にも、きっと杏寿郎の眼は私を観察していたんだ。

 …当たり前だ、私は鬼なのに。
 何も考え無しに傍に来るはずがない。

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