第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「炎柱、さん」
「やはり! 不死川少年であったか!」
「え?」
ちょっと待って。
となると彼が不死川玄弥?
私の真の目的の人物?
「なんで此処に…」
「久しいな!」
「…っス」
川から上がりながら、解けかけている白装束の帯を結び直す。
全身ずぶ濡れの彼は、改めて見れば十分大きな体をしていた。
杏寿郎より一寸程高い身長に、筋肉もきちんと付いた体。
吊目の三白眼ときつそうな顔立ちは、右頬から鼻の頭を通って左目元まで走る大きな傷跡が、更に強面さを強めている。
顔がおっかない…流石おっかな柱の弟。
更に頭部の左右を刈り上げて、中央から後頭部にかけての髪だけを長く伸ばしている…なんて言うんだっけ、あの髪型。
と…と、なんだっけ…
「それであの、炎柱…煉獄さんが、なんで此処に? 悲鳴嶼さんに用とか?」
「うむ、そうだ! 蛍少女が会いたいと」
「蛍少女?…って、其処のおん」
「棟髪刈(とうはつが)り!」
「…な?」
「む?」
あ、いけない。
思わず指差して叫んでしまった。
そうだ棟髪刈りだ。
初めて見た。
「ご、ごめんなさい。彩千代蛍、です」
慌てて頭を下げれば、途端に不死川玄弥は口を閉じた。
私を見てくる目が…怖っ
なんかかっ開いてる。
「彼は不死川玄弥だ」
代わりに杏寿郎が自己紹介をしてくれたから、やっぱりあのおっかな柱の弟だと知ることができた。
もしかしたら見た目だけじゃなく、性格もおっかな柱に似てるのかな…さっきから目が怖いんだけど。
黙り込んだままだし。
「悲鳴嶼殿は屋敷にいるか?」
「…案内します」
杏寿郎の問い掛けに、岩場に置いていた着物一式を手に取り草履を履くと、頭を下げて案内役を買って出てくれた。
ただの暴君ではなさそうだけど…とりあえずさっきから目を合わせてくれない。
じーっと見ていれば、通り過ぎ様にぱちりと目が合う。
かと思えば、パッとすぐさま逸らされる。
…なんだろう。
極度の人見知り?