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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔



「む? どうした?」

「…ぃゃ…今、」


 人の声の、ような。
 そんな僅かな音を耳が拾ったのは、滝の音に混じえてだった。


 ドドドドドド


 激しい滝の音。
 近くに滝壺でもあるのか。


「…ぁ…っ…」


 やっぱり聞こえた。


「声がする」


 微かだけど、確かに人の声。


「滝の、方から」

「人の声? それらしいものは聞こえないが…」

「滝の音にほとんど掻き消されてるみたいだから。寄ってもいい?」

「うむ」


 鬼の耳だから拾えたのか。
 滝の音がする方へと草木を掻き分けて行けば、やがて広がりに出た。
 其処には大きな川があった。
 そして音通りの大きな滝も。


「…陀……阿…」


 聞こえてくる微かな声が、段々とはっきりしてくる。
 それは落下してくる滝の中心にあった。


「摩訶般若波羅蜜多心経…観自在菩薩…行深般若波羅蜜多時…」


 聞こえてくる声はお経の読みだった。
 ぶつぶつと一心不乱に唱えている。
 その者は滝の真下で合掌をし、両目を瞑ってひたすらお経。

 た、滝行だ…夜も間近なこんな時間に、山奥で滝行をしている。


「むぅ。あれは…」


 初めて見たその光景に言葉を失う私の隣で、杏寿郎が顎に手を当てて渦中の人物を見た。
 あれは悲鳴嶼行冥じゃない。
 それよりももっと体は小さく、人並みだ。
 滝が邪魔してよく見えないけど、多分男性。
 白装束姿に、滝に打たれて流れる髪が肩へと叩き付けられている。
 男性にしては髪が長…ん?
 よく見ると変な髪型だ。


「不死川!!!」

「「!?」」


 唐突だった。
 ビリビリと響くような大声を杏寿郎が上げたのは。

 隣に立っていた私も驚いたけど、滝行を行っていた彼も驚いたようで、お経が止まる。
 と、バシャバシャと体を打っていた水の音が止んだ。


「…あ、貴方、は…?」


 滝の中から姿を見せた白装束の男性。
 …いや、男性と言うにはまだ若い青年。
 彼はまじまじと杏寿郎の顔を見ていた。

 なんか認識あるみたい?
 そうだよね、杏寿郎は炎柱だし此処は鬼殺隊。
 柱を知らない隊士は、いないはず。


「…ん?」


 ちょっと待って。
 今、不死川って呼んだ?

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