第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「こんな所に一人で何度も足を運んでいたら、周りに、その…」
変な目で見られたり、しないのかな。
例え事情を知らなくても。
流石にそんなこと直球で訊けなくて、押し黙る。
「…だからだよ」
はっきりとした肯定の言葉じゃなかった。
でも私の思い描いていた不安と後藤さんの事情は、通じていたみたいだ。
「オレは蛍ちゃんのこと、こうして何度も言葉を交わして、鬼であること以外はオレ達と何も変わらないって思えるようになった。けどオレの仲間内では、そう思わない者もいる。仕方ないとも思う。鬼に身内を殺されて鬼殺隊になった者も多いからな」
「……」
「でも、それが全てじゃないとも思ってる。だから身を持って証明したいのかもしれない。蛍ちゃんには悪いが、結局のところオレはオレ自身の為にやってるんだ」
柔らかい後藤さんの目元が、申し訳無さそうに影を作る。
…別にそれは悪いことなんかじゃないよ。
自分の為に生きるのは人として全うなことだ。
全て貴女の為、と理由付けられるよりも、納得のできる健全な理由だと思う。
「よかった」
「ああ、ごめ…え?」
「謝らなくていいよ。私はそっちの方が、ほっとする」
この世界は浮世だから。
自分の為に生きることは凄く大事なことだ。
他人だけに気を向けていたら…喰われてしまう。
ただその中で後藤さんの世界は自分以外に、同じ隠の仲間達も入っている。
やっぱり根本がとても優しい人。
「いつか伝わるといいね。後藤さんの思い。…私が言うのもなんだけど」
こういう時、義勇さんのような鋭い激励も、杏寿郎のような強い後押しも、蜜璃ちゃんのような優しい抱擁も、上手く言葉にできない。
在り来りなことしか言えない自分が少し虚しくなるけど、下手に繕うこともできなくて。
そのままの感情を伝えれば、それでも後藤さんの目元から影は消えてくれた。
「ありがとう、な」
「悲鳴嶼行冥に会いたい?」
「そうか! 何故だ!?」
それから日を置かずして、柱二人に提案した矢先。
真っ向から理由を問い質されて思わずたじろいだ。
…後藤さん。
これはあんまり口実にならなさそうです。