第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
それにしても、まさか弟なんて…もしかして弟の前ではあのおっかな柱の殺気顔も消える?
意外に優しい顔してるのかも…そうだ、だってあんなに優しい色を纏っているんだ。
その優しさは身内にだけ向けられるものなのかもしれない。
…待てよ。
となれば。
「…いける」
「え?」
「いけるかもしれない」
「何が?」
そのおっかな柱が大切にしている弟を丸め込…じゃなくて、弟を手中…でもなくて、仲良くなってしまえば。
おっかな柱を味方に付けることができるかもしれない。
いや、味方は無理だな。
せめて死ねだの殺すだのと言われなくなるかも。
最近では死合えの誘い文句の方が多いけど。
とにかく、それだけでも行動する意味はある。
「案外いけるっ」
「だから何が」
「後藤さん!」
「お、おう?」
そうと決まれば即行動。
それこそ数少ない、私の味方をしてくれそうな目の前の人に呼び掛けた。
「私、その玄弥って人に会ってみたいっ」
もしかしたら炭治郎のことを何か訊けるかも。
そう嬉々として提案したけど、同時に気付く。
「ぁ…でも私、柱以外の人と会うのは…」
禁止、だったんだっけ…。
「あー…まぁ…でもオレも柱じゃねぇしなぁ。岩柱さんに会いに行くのを口実にしてしまえばいいんじゃないか?」
「岩柱に…」
確かに後藤さんも柱じゃないけど、義勇さんの独断で会うことは許された。
それを考えれば、徹底的に駄目なものと管理されている訳じゃない。
悲鳴嶼行冥が許してくれれば、会うことくらいならできるかも。
それに…あの初詣以来、悲鳴嶼行冥には会っていない。
…彼自身にも会って、みたいかも。
もう少し彼を知りたい気持ちもあった。
「ありがとう後藤さん。その案でいってみる」
「そうか。上手くいくよう祈ってるよ」
いつもの隠の覆面を付けてるけど、にこりと笑う後藤さんの目元は柔らかい。
本当に、この人は根本が優しいな…。
「…ねぇ、後藤さん」
「ん?」
「後藤さんは…なんで、こんなに私によくしてくれるの?」
鬼である私を受け入れてくれただけでも凄いのに。
何度も此処へ一人で足を運んで、何時間もつき合って言葉を交わしてくれるなんて。
並大抵の思いじゃできやしない。