第4章 柱《壱》
「大体"忍者"って呼び方はなんだ。宇髄天元"様"だろ様を付けろ。敬え崇めろ」
「……」
「なんだその目また殴んぞ」
「ひゃあ! 女の子に乱暴しちゃダメ!」
「っ」
何を言っているんだこの忍者は。
とじっと顔を見てたら、またも拳を握られた。
かと思えば蜜璃ちゃんが横から割り込んで私の体を抱きし…羽交い締めしてくる。
い、痛い。腕力が凄い。
「どうせ殴ったって即刻治るだろ、鬼なんだからよ」
「ダメったらダメ! それなら宇髄さんだって蛍ちゃんの鬼呼びをやめなきゃ!」
「あん?」
「確かにそれは一理ある。きちんと名で呼ばれたければ、同じ姿勢を示さなければ」
杏寿郎に尤もなことを言われて、ようやく忍者も拳を下ろした。
同時に蜜璃ちゃんの羽交い締めから解放されてほっとする。
た、助かった。
「鬼は鬼だろ。それ以上も以下もあるか」
「そんな言い方…っ」
「ふぐふ」
「蛍ちゃん?」
それでも認めない忍者に、尚も喰らい付こうとする。
そんな蜜璃ちゃんの背中を撫でて、勢いを止めた。
鬼を敵とも思っている人間に受け入れて貰おうとするのが、土台無理な話。
無理強いする必要はないと頸を横に振る。
「でもォ! 蛍ちゃんは哀しくないの!?」
「ふぐ」
私以上に凹んでいる蜜璃ちゃんを見ていれば、気も紛れるから。
大丈夫です。
「でもでもォ!」
「ふごうく」
「うう…蛍ちゃんがそう言うなら…」
「ふんふふ」
「そうね…折角の綺麗な月夜だし…楽しまなきゃ損よね…」
「つーか会話は成り立ってんのかそれで…」
「彩千代少女と甘露寺こそ仲良しだな!」
さつまいも弁当を差し出し誘えば、メソメソしながらもまた蜜璃ちゃんはご飯を食べ始めた。
杏寿郎といい蜜璃ちゃんといい食べっぷりが凄いから、ある意味見ていて気持ちがいい。
「そうだ! 蛍ちゃんも一緒に食べるっ?」
「ふぐ」
いえ大丈夫です。
そういう意味で手を横に振れば、不意に蜜璃ちゃんの手が伸びて腕を掴まれた。
何?
「あら? ここ、怪我してるわ」
そう言って蜜璃ちゃんが目を止めたのは、掴んだ私の腕の内側。
ほんの少し血が滲んで、着物の袖に付着していた。