第10章 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る✔
「後藤さん、今日は仕事は?」
「今日はほとんど事務処理だったからな。早めに片付いたから大丈夫だよ」
「そっか。お疲れ様」
それでも仕事終わりにこうして会いに来てくれるなんて。
後藤さんも、義勇さんとは別の意味で面倒見が良いというか。
私からは会いに行けないから、こうして足を運んでくれる人がいるのはありがたい、と思う。
「最近、大きな仕事はないみたいだね」
「そうだな。柱の方々が随所で鬼退治してくれてるお陰かもなぁ」
「そうなの? 此処で見かけることが多いから、あんまり遠征してる想像がつかないけど…」
「一般隊士に比べて柱の仕事の速さは尋常じゃないからな。あの風柱さんなんて次から次へと率先して討伐に向かってるし」
「あ、その想像は凄くつく」
後藤さんとは何度も言葉を交したから、今では余所の鬼の話も気遣うことなくできる。
初詣で出会った童磨達のこともあるから…そのことは誰にも話していないけれど、後藤さんに前に世間一般的な鬼のことを色々訊いてみた。
そこでわかったこと。
後藤さんの知る鬼は、初詣なんて行かないし人に混じって余興を楽しんだりもしない。
となると童磨達は特異な鬼だったのかな…もしかしたら私のような立場の鬼でも、受け入れてくれる存在なのかもしれない。
だって妓夫太郎と堕姫の絆は確かだった。
鬼にも情や想いがあることを知った。
明確ではないけれど、そんな些細な期待が私の視野を広くする。
春が来れば、待っているのは半年に一度の柱合会議。
私の世界は狭められてはいないと、お館様に伝えられるかもしれない。
「そういや最近入ったばかりの新人が中々に腕が立つとか。それで柱の出陣も減ってるのかもしれないな」
「新人?…あっ」
それって。
思わず檻の格子に飛び付きそうになって、慌てて既で止まった。
いけない、また藤の花に触れたら体が溶けてしまう。
それでも食い入るように格子越しの後藤さんを見る。
前に一度だけ、義勇さんに告げられた。
『竈門炭治郎が、最終選別を突破した』
それは禰豆子が目覚めた時と、ほぼ同じ時のことだった。
つまり炭治郎は鬼殺隊の剣士として合格したんだ。
鬼殺隊になったなら、いつかは此処に来るかもしれない。
きっと禰豆子を連れて。