第9章 柱たちと年末年始✔
今一度目で追った三人の姿。
真ん中を歩く一つ小さな頭は、ちりりと簪を揺らし進む。
その光景が蜜璃にとっての答えだった。
「不思議なものよね。蛍ちゃんを見ていると私もなんだかここがぽかぽかするの」
「……」
「そういう意味なのかしら?」
胸元に手を当て微笑む。
蜜璃の視線を追うように、小芭内もその目に凹凸ある三人の背中を映した。
「…さぁな」
しかし興味なくすぐに視線は外れる。
「鬼の気持ちなどわからん」
「…それは…そうかも、しれないけど…」
「だが…甘露寺が抱く思いなら…知りたいと、思う」
「え?」
瞬く間しか蛍達を映し得なかった左右違う色の瞳は、蜜璃へと向いている。
少し気恥ずかしそうに、しかし先程のように外されることはなく。
直視はできなかったのか、ちらりちらりとだけ向けてくる。
その目と、ぼそりと告げられた小芭内の言葉に、蜜璃は忽ち嬉しそうに笑った。
「じゃあ伊黒さんも! はいっ」
「?」
「手、繋いで帰りましょ」
「っ!……君…が、寒いと言うなら…」
「ええ、とっても寒いわっ」
きゅんきゅんと胸が高鳴る。
その感情の赴くままに蜜璃の手が小芭内の手を握る。
「ふふ。伊黒さんの手、冷たいわね」
「…すまない…」
「わ、悪いなんて言ってないわ! 知ってる? 手が冷たい人って、心があったかいのよっ」
謝罪する小芭内に慌てつつも自分のことのように嬉しそうに告げてくる蜜璃に、流石の直視も限界を迎えた。
小芭内の顔が余所を向く。
しかし頬は熱く胸の鼓動は速い。
(…成程、な)
それでも見ていたいと思ってしまう、彼女の眩いばかりの笑顔にまた、ちらりとだけ眼差しを向けて。小芭内は内心、一人納得した。
冷たい自分の掌を温めてくれる優しい蜜璃の体温。
それは確かに胸の内側をほかほかと温める。
辺りを舞う粉雪は冷たい。
しかし不思議と寒くはないのだ。
蛍の思考を知りたいなどとは思わない。
ただこの時ばかりは鬼である彼女に賛同した。