第9章 柱たちと年末年始✔
「──蛍少女! 冨岡!」
木々の上では動かなかった足を踏み出す。
皆の後を追うようにして、よく通る声を杏寿郎は上げた。
「なんだ?」
「いや…なんだ、その」
「?」
振り返った義勇と蛍が共に頸を傾げる。
追い付いた二人に一瞬視線を宙へと投げると、ゴホンと咳払いを一つ。
再びしかと視線を合わせて片手を差し出した。
「俺もぜひ、その拘束役を買って出たい!」
無言で押し黙る義勇に対し、きょとんと差し出された手を見る蛍が一歩先に動いた。
迷う素振りもなくその手を空いた手で握り、にこりと笑って軽く引く。
「ふ!」
相手が杏寿郎ならば迷うこともない。
拘束とは名ばかりの緩い体温同士の繋がり。
それが嬉しいとでも言うように、左右両手を握り返す蛍は楽しそうだ。
つられて杏寿郎の口角が柔く緩む。
「よし! では帰るとしよう!!」
「おい、余り急かすな。転ぶぞ」
「わははは! その時は俺が支えるから安心するといい!」
「ふくふ♪」
右手に杏寿郎。
左手に義勇。
真ん中を歩く蛍の足は、軽やかに。
からりころりと、弾むように下駄が鳴る。
「とっても素敵な光景ね、伊黒さん…!」
「…そうか…?」
きらきらと瞳を輝かせて、そんな三人の姿を見送る蜜璃の表情は心底嬉しそうだ。
「それより俺達も早く帰ろう。雪で体が冷える」
蜜璃の体調を気遣うように小芭内が催促する。
その言葉に習うように、蜜璃の目は夜空を舞う粉雪を見つめた。
「ねぇ、伊黒さん。雪って冷たいものよね」
「? それはそうだろう」
「でもね、さっき初雪を見た蛍ちゃんがとっても不思議なことを言ったの」
「不思議なこと?」
先程の蛍のように、蜜璃の頬に落ちてくる粉雪。
人の体温に触れると忽ちに溶けて消える。
しかし残る水滴は、僅かなものでも徐々に体温を奪っていく。
冷たく儚い。氷の結晶。
「〝冷たいけど、寒くない〟そう言ったのよ」
「…どういう…?」
意味がわからず頸を捻る小芭内とは相反し、蜜璃の口元が綻ぶ。